第16回 アーティキュレーションを表現するために
ピアノランドの教え方 How to use PianoLand
第16回 アーティキュレーションを表現するために

第16回 アーティキュレーションを表現するために

例えば、役者さんにとって台本をどのように理解して表現していくかは、大きな問題だと思います。

1つ1つの言葉にどのような意味を与え、どのようなイントネーションで、アクセントで、スピードで、声の色で読んでいくのか。

どうしたら、一番効果的で心に届く表現ができるのかを、いつもいつも考えていることでしょう。

 

では、それを演奏家が楽譜をどのように弾くのか、ということに置き換えて考えてみましょう。

1つ1つの音をどのような音色やニュアンスで表現していけば、その曲にふさわしく、作曲家の意にかなうのか、自分らしい表現になるのか。

どの部分をどのような表情のレガートに、あるいはノンレガート、スタッカート、テヌートにするのか、アクセントはどれくらいの鋭さにするのか等、書かれている全ての音に対するプランを組み立てていく。

それが、今回のテーマ、「アーティキュレーション」です。

 

ピアノを弾く人は、優れた弦楽器や管楽器奏者のメロディラインの歌い方への情熱の傾け方を見習い、アーティキュレーションに対する感性をもっともっと磨いていきましょう!

ピアノ奏者は一度に沢山の音を弾くからといって、一音への意識が薄くなっていいというわけではありません。

 

ピアノランドメソッドでは、“二段階導入法”で〈聴く〉ことだけにスポットを当てて、何をどのように聴くかを学んできました。

アーティキュレーションを学ぶにあたっては、特に、〈聴く〉ことが重要になってきます。

アーティキュレーションを弾きわけるためには、アーティキュレーションを聴きわける耳が育っていることが前提です。

ほんの少しの違いで軽やかになったり重たくなったり、音楽の印象がガラリと変わるのです。

先生のお手本演奏や伴奏パート、自分の演奏をよく聴いて吟味する習慣をつけ、アーティキュレーションに対する感覚を磨きつづけていきましょう。

 

最後に小原孝さんお演奏もありますので、どうぞお楽しみください!

 

 

目次です。

●音楽を、言葉のように!

●アーティキュレーションを考え、音楽に表情を与えよう! 「ピアノランドマーチ」

●アーティキュレーションは手首の使い方がとても大切! 「ちちんぷいぷい チャチャチャ」「やねの上のこねこ」

 

 

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●音楽を、言葉のように!

「正しい音を弾いているのに“音楽”に聴こえないような演奏」……にならないよう、早い段階から音楽的な言葉遣いを教えていきましょう。

音楽の構造に興味を持ち、理解して、音楽を言葉のように表現できる人になってほしいという願いをこめて、レッスン3「音楽のことば」という単元を作りました。

アーティキュレーションについて深く考えるための、予備知識とも言えます。

 

 

『ピアノランドたのしいテクニック』中巻 レッスン3「音楽のことば」

『ピアノランドたのしいテクニック』中巻 レッスン3「音楽のことば」

 

 

〈文字〉が集まって〈言葉〉に、言葉が集まって〈文〉に、文が集まって〈物語〉ができるように、

〈音符〉が集まって〈音型〉に、音型が集まって〈フレーズ〉に、フレーズが集まって〈曲〉ができることを教えます。

グループレッスンでも楽しい単元です。それぞれが好きな音や文字、音型や言葉を考えて、フレーズや文を作り、それを組み立てていけば曲やお話ができていくことを体験するのは楽しいものです。

 

先生向けの「レッスンのポイント」をよくお読み頂き、動画も参考にしながら、子ども達が音型やフレーズを把握し、その特徴を感じ取り、楽譜を通じて作曲家とコンタクトできるよう、サポートしていただければ幸いです。

 

 

 

 

●アーティキュレーションを考え、音楽に表情を与えよう! 「ピアノランドマーチ」

ピアノランドメソッドでは、初歩からアーティキュレーションを教えています。

アーティキュレーションは、個々の音に表情を与え、音楽を生き生きとさせるものです。

スラー、スタッカート、テヌート、アクセント等の組み合わせで、音楽は様々な表情を見せてくれます。

どのようなアーティキュレーションをつけると音楽が自然に歌い出すのか、それを判断する感性、センスを育てたい!と思い、このレッスンではアーティキュレーションをつけたときとつけないときの違いを感じさせたり、自分で考えたアーティキュレーションを楽譜に書き込んで演奏させたり、さらにはタイトルをつけたりと、自分の意志で、能動的に音楽と関ることを教えます。

今思い返しても、当時としては画期的な試みだったアーティキュレーションのレッスンが、今では多くの先生方の支持をいただき、子ども達の実力アップにつながっているのは嬉しいことです。

 

アーティキュレーションは、ただ「書いてある記号通りに弾く」のでは不十分です。

レッスン11、p.33の「レッスンのポイント」からの抜粋です。

「ピアノランド以外でも、バッハやモーツァルトなどの小品で、アーティキュレーションの例を豊富に勉強させてください。同じ曲でも、校訂者によりアーティキュレーションが違うので、子供と一緒に比べたり選んだりして弾いてください」

そして、自分の解釈でアーティキュレーションを考えられる人を育ててください。

 

 

『ピアノランドたのしいテクニック』中巻 レッスン11「アーティキュレーション」

『ピアノランドたのしいテクニック』中巻 レッスン11「アーティキュレーション」

 

 

 

このようなレッスンを経て、『ピアノランド』3巻の「ピアノランドマーチ」へと進みましょう!

とくに「ピアノランドマーチ」では、歌詞のイントネーションが音の高低変化や、“拍による音の重さ軽さ”の表現を自然に助け、アーティキュレーションの表現力アップに役立ちます。

この曲に限らず、充分に歌ってから演奏することの重要性は、もっともっとピアノの先生方に浸透してもいいのではないかと思います。

歌心あっての、アーティキュレーション、テクニックです。

 

『ピアノランド』3巻より 「ピアノランドマーチ」

 

●アーティキュレーションは手首の使い方がとても大切! 「ちちんぷいぷい チャチャチャ」「やねの上のこねこ」

繊細なアーティキュレーションの表現 のためには、手首の柔軟性が欠かせません。

手首を柔軟にして、音楽に応じた適切な使い方ができるようにしましょう。

動画のように、谷型、山型の動きをマスター → 机の上で準備体操 → 「かざぐるま」で、なめらかな手首の回転を利用したレガートの表情を味わい、楽しみましょう。

 

『ピアノランドたのしいテクニック』中巻 レッスン12「手首のつかいかた」

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手首を回すことが目的ではありません。欲しいニュアンスのために、手首をどのように使ったらよいかを考える習慣をつけましょう。

常に、自分が弾いた音をよく聴き、求める音色や表現が実現できたかをチェックして、タッチを調整していくことです。

 

 

 

 

次のレッスンでは、スタッカートを3つの奏法(フィンガー、ハンド、アームタッチ)で弾き比べます(この段階でできるスタッカートのみを扱います)。

ポイントは、子ども自身が、楽譜を見てタッチを選べるようにサポートしていくことです。

音の表情を変化させるためにタッチを選ぶ! 動画を参考に、自分の音をよく聴いて練習するよう促してください。

紹介している「雨のエチュード」は、マスターコースピアノランド勉強会で、ピアノの先生方が熱心に指導法を質問される曲です。

このレッスンをすることで、スタッカートを見る度に、子ども達は「どんな表情の音がいいかな? フィンガータッチかな、ハンドタッチかな?」と考えるようになっていきます。

 

『ピアノランドたのしいテクニック』中巻 レッスン13「スタッカートと手首」

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それでは、アーティキュレーションのいろいろな表現をどんどん、曲でも応用していきましょう!

9小節目以降、プリモとセコンドにある小さなクレッシェンドとディクレッシェンドの音型は、「かざぐるま」で学んだレガート奏法が使えますし、沢山出てくるスタッカートはレッスンで学んだ中からそれぞれに選ぶことができるでしょう。

 

『ピアノランド』3巻より 「ちちんぷいぷい チャチャチャ」

ちちんぷいぷい

 

 

 

 

 

やねの上のこねこタイトル

 

では、ピアノランドメソッドでアーティキュレーションを学んだ成果を『ピアノランドコンサート』中巻(全11曲)で実感していただきましょう。

今回は特別にコンサートタイムです!

小原孝さんが“ピアノランドフェスティバル2015”で演奏してくださった「やねの上のこねこ」の演奏をご覧ください。

なんと鮮やかなアーティキュレーションでしょうか!

 

 

 

 

 

『ピアノランドコンサート』中巻CD『ピアノランドコンサート』

 

今回は、アーティキュレーションという大きなくくりに取り組みましたが、連載の中の関連項目を記しますので、参考にして頂ければ幸いです。

第1回〜8回までは、“二段階導入法”でアーティキュレーションを表現する内的要素(読譜力、歌心、拍子感等)と身体的要素(緊張と脱力のコントロール、手指のトレーニング等)を準備してきました。

第9回 黒鍵の和音でロングトーンの響きを聴く → 和音間のレガートとノンレガートを学びました。

第10回 「どどどど どーなつ」で元気なノンレガートのドに、「さらさらおがわ」でやさしいドに出逢い、どんな「ド」を弾くのか、一音の表情を大切に演奏することを学びました。

第11回 ドとレの2音で、レガート、スタッカート、ノンレガートの奏法を学びました。

第12回 黒鍵、白鍵で1、2、3、4の指でのレガートの受け渡し、長調短調ポリフォニーを学びました。

第13回 6/8の拍子感の中で、拍の重さ軽さを感じながらメロディを歌わせることを学びました。

第14回 固定5指のポジションで、音型に応じたアーム、ハンド、フィンガータッチの使い分けを学びました。

第15回 ポジション移動を学びながら、様々な曲想に応じたタッチを学びました。

そして、第16回の今回は、さらにアーティキュレーションという概念を把握し、その必要性を理解して、手首を使ったレガートとスタッカートの奏法を学び、楽曲で応用していく大切さを考えました。

 

 

それでは、次回もお楽しみに♪

ねこ

 

 

 

 

樹原涼子

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