第1回「ピアノランドの教え方」 連載開始! ご挨拶
こんにちは! 樹原涼子です。
このウェブページで、「ピアノランドの教え方」を連載したらどうかと、ピアノランド25周年を前にした会議で、音楽之友社の編集者にアドバイスをいただきました。
本当にその通りです! なぜ今まで気づかなかったのでしょう!
「ピアノランド」に興味を持ってこのページを探し当ててくださったみなさんに、ピアノランドとは何か、どのように教えていけばよいのか、わかりやすくお伝えしていく場として、これから活用していこうと思います。
みなさんからの感想や質問なども、お待ちしております! 反響があると、筆が進むというものですし。
そうそう、そこから、「よくある質問」ページが生まれるかもしれません!
この連載をお読み頂ければわかることもあるでしょうから、多くの方のお役に立ちそうなものを選んで、それにお答えしていこうと思います。
初回は、「ピアノランド」が生まれた経緯からスタートして、「ピアノランド」の入り口をご紹介いたします。
連載第1回の見出しです。もちろん、興味のあるところからお読み頂いても構いません。
●なぜ、「ピアノランドの教え方」の本が、これまでなかったのか
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●なぜ、「ピアノランドの教え方」の本が、これまでなかったのか
そもそも、1冊目を出版した1991年から数えて24年目、シリーズで180万部、日本初のオリジナルピアノ教則本として全国で広く使われているにもかかわらず、なぜ、「ピアノランドの教え方」の本が現在出版されていないのか? みなさんも、疑問に思われることでしょう。
そうですよね…! 私も真面目に考えてみました。
その理由は、『ピアノランド』は、過去の本ではなく、まだ、著者(である私、樹原涼子)が、次々と新しいことを追加して、ピアノランドワールドは増殖しつづけているから…。
1冊ごと、カテゴリーごとには完結したように見えても、まだまだ、樹原涼子の研究、執筆は終わっていない!
そうなんです。そのために、「使い方」を未だまとめるに至っていない、そのチャンスがなかった…という訳です。
また、本人としては、20代でピアノランドの着想を得てコツコツと作り始めて、次々に次のシリーズが出版され、全国各地で沢山のセミナーをして、ピアノランドマスターコース、コード塾で講義、勉強会のシステムを作り…と、怒濤のような日々を送ってきました。これで、「伝え足りない」とは、微塵も思っていなかったということもあります。
ちなみに、1991年の初セミナーから昨年(2014年)末までに通算580回、延べ42,000人にお話をしてきました。
ピアノランドマスターコースは1994年スタート、現在(2015年)14期生受講中、延べ450人が受講。
樹原涼子のコード塾は、2005年スタート、現在5期生受講中、延べ173人。
講師を派遣して行なうピアノランド勉強会各種は、これまでに3,000人以上。
2000年から開催しているピアノランドフェスティバルは、 2015年までに延べ2万人以上に聴いていただいたことになります。→ピアノランドフェスティバルの歴史
この20数年間、月の1/3は、セミナーかコンサートをして人前に立ち、地道に教育活動を重ねて来ました。
これ以上は子育てと両立不可能と思われるギリギリまで頑張ってきたので、私にとっては、これだけでも充分過ぎる仕事量だったのです。
が、当然のことながら、まだまだ「ピアノランド」を知らないという人に出逢います。
これから「ピアノランド」を使いたいけれど、どこから始めたらいいのかわからないという人も沢山いるでしょう。
「ピアノランド」をよく知らない人からの伝え聞きで間違った使い方をしている人もいるようですし、「ピアノランド」を譜読み教材として使っていたり、連弾なのに伴奏をしていなかったり、テクニック教材を併用せずすぐに壁にぶつかったり、幼児に『プレ・ピアノランド』を使っていなかったり…。
私の知らないところで、誤解や失敗例が沢山ありそうです。
それらを解消する手だての1つとして、この連載がお役に立てば幸いです。
どんなメソッドでも、目的と方法を知ってから使い始めていただくと効果が上がります。
本の前書きを読まないで使う人が多いことにも問題があります。(多いんです!)
どうか、著者の意図を理解した上で、メソッドを効果的にお使いいただけますように!
そのために、この連載もがんばります!
多くの方が「目からウロコ!」と言われるピアノランドメソッドですから、習って来たやり方との違いにびっくりされることもあるでしょう。
ですが、時代は変わり、価値観は変わり、今この時代に生きている私達は次の世代へと文化をバトンタッチしていくのです。
20世紀から21世紀の変わり目に生まれ、現在も進化をつづけているメソッドをご一緒に研究していただければ、きっと未来の子ども達のための礎となるのではないでしょうか。
●「ピアノランド」が生まれた理由
私が「ピアノランド」を作った理由は、簡単に言えば、使いたい教材がなかったから。
音大生のときに教え始めた小学生はみなバイエルを嫌がり(私の経験不足、メソッドの時代的な限界、彼女達のセンスに合わない楽曲などが原因)、なぜ、今の子は(もう、当時の子は…ですが!)バイエルで挫折するのかを細かく研究しました。
次には、バイエルの代わりに、世界各国のメソッドを研究して、一人一人に異なる教材を使い、成果を上げることができたものの、子ども達がその“お国柄”に馴染めない、という不満に直面しました。
どのメソッドも、その国の文化を全面に押し出し、その「血」ともいうべきものがメソッドの根底に流れていることに気づいた私は、はたと立ち止まりました。
世界の民謡をベースにした教材からは、面白さと同時に違和感を感じることもありました。
時々、ならいいのですが、毎日異国の料理ではお米が恋しくなってしまうような感じです。
作詞の仕事をしていた私には、訳詞のイントネーションやセンスが気になりましたし、イラストやデザインはお国柄がよく出ていて、感覚的に受け入れられるものとそうでないものもありました。
私はそれらの海外のメソッドを使いながら、日本のピアノ教育に必要な要素は何かを考え、一人一人に曲を書き、それぞれのメソッドの隙間を補うようにレッスンで練り上げていきました。
日本語に翻訳されていないメソッドは原語のまま使っていたのですが、そうこうするうちにいい考えが閃いたのです。
「そうだ、日本人が作ったメソッドでスタートしてみよう!」
私は、意気込んで楽器店へ向かいました。
上記の問題を解決するには、それが一番いいと思ったのです。
けれど、残念ながら、日本人が作ったメソッドは、池袋のヤマハのあの大きな書棚に1冊もみつかりませんでした。
探しても探しても、子ども向けの曲集はあっても、私が求める“メソッド”はない、あのときの無力感。
「日本の作曲家は何をしているんだろう」(すみません、若かったので…心の中で呟きました)
「もう、誰も書いていないのなら私が書こう!」 と、自分の教え子のために、さらにせっせと作曲を始めたのでした。
がっかりはしましたが、その日、お店で見つけられなかったのは、ピアノランドのためにはよかったのかもしれない、と今では思います。
●時代とメソッドの関係
故三善晃先生が『Miyoshi ピアノ・メソード』をお出しになったのは1997年でしたから、ピアノランド出版の6年後のこと。
三善先生のメソッドは、日本人ならではの、そして、三善先生の時代やそのお人柄全てを含んだ、繊細で美しい、他にない世界観を持つものでした。
あの日、この本が書棚にあったなら、私はどうしていたのか、それはわかりません。
メソッドとは、1つの考え方に基づいてその教え方が体系となっている、ある程度の規模のあるものを指し、初歩からあるレベルまでの進み方、目指す方向性、練習方法などが明示されています。
“メソッド”について考えるとき、とても大切なことがあります。
それは、「メソッドは、そのメソッドが作られた時代までの音楽に対して通用するものである」ということです。
例えば、古典の作品までをカバーできるメソッド、ロマン派まで、近現代までをカバーできるメソッド…という具合に、作られた時代に応じた限界がおのずと生じます。
いくら優れた作曲家であっても、未来の作曲家が書くであろう曲やその時代のための練習曲は書けないでしょう。
「約200年前の教材を練習して近現代の曲を弾けるようにはならない」のは、当然のことです。
メロディも、和声も、リズムも、それ以外の何もかもが、多くの音楽家の努力によって、その後発達してきたのです。
過去のメソッドを使うときには、その時代までの音楽しかカバーしていないという条件を承知した上で、それを補う教育が必要である、ということです。
いくら表紙や絵を新しくしても、問題はメソッドそのものの設計図の仕様と、どのような楽曲が弾けるようになるのかというメソッドの到達点です。
だから、時代が変われば、新しいメソッドがどうしても必要だと、私は考えます。
自分が使って来なかった新しいメソッドを学ぶのは、教える人にとって確かに大変なことです。
が、次の世代のためには、架け橋が必要です。
その架け橋になろうという、多くのピアノの先生達のおかげで、「ピアノランド」は瞬く間に全国に広がっていき、さらに仲間が増えつづけています。
いつの日か、「ピアノランド」で育った子ども達の中から、次の世代のメソッドを作れるような人が生まれてくれたらいいなと思いながら、作曲のワークショップや作品の公募、公開レッスンなどを企画しているのです。
●ピアノランドメソッドの目指すところ
「ピアノランド」は、バロック、古典、ロマン派、近現代のどの時代の曲にも通じるメソッドです。樹原涼子が、現代に生きる日本の子ども達のために全曲書き下ろし(テクニック教材含む)、クラシックはもちろん、現代の様々な音楽のエッセンスを含み、ノンジャンルに、ピアノという楽器を使って音楽を楽しむことを目的としています。
初歩の教材で、音楽と、ピアノとの出逢いが決まる!
それはもう、あだやおろそかにはできない、大切な大切な瞬間です。
「ピアノランド」が何を大切にしているのかを簡単にまとめてみましたのでご覧ください。
【はじめから音楽を】
メロディ、リズム、ハーモニーの三要素が揃ってはじめて音楽です。
「ピアノランド」は、はじめに、子どもが音楽の主役であるメロディだけを担当、先生が連弾の伴奏パートでリズムとハーモニーを担当することで、初歩であっても、はじめから音楽を丸ごと体験することができます。
メソッドが進むにつれ、子どもパートの役割が増えて音楽的自立を促し、④巻からは先生の伴奏なしでもソロだけで充分に音楽が表現できるようになるのです。
★音楽の三要素 「ピアノランド」の特徴
メロディ歌いやすく自然であること 段々音域が広がっていく
現代の子どもが歌いたくなる、歌詞とメロディのフィット感
歌ってから弾くので、歌うように弾けるようになり、弾き語りもできるようになる
連弾により、多声部音楽への耳が作られる→ポリフォニーの導入がスムーズである
リズム連弾の伴奏、ミュージックデータの伴奏があるので、テンポ感がつく
他のパートとのポリリズム、ソロでのポリリズムができるようになる
ロック、ジャズ、ポップスなどの現代のリズムはもちろん、変拍子もマスターできる
ドライブ感のある演奏ができる リズム感が育つ
ハーモニーバロック、古典、ロマン派、近現代、どの時代にも対応できる和声感覚が育つ
Ⅰ Ⅳ Ⅴ7 以外の様々な機能の和音を、初歩の間から伴奏パートで聴いて体験
借用和音、転調に親しみ、モード(教会旋法)や全音音階等、様々なスタイルの楽曲と出逢う
和声感覚が豊かに育ち、表現力に富んだ演奏ができるようになる
【はじめからよい音で】
よい音は、留学しないと出せないのだと思われていた時代がありましたが、幼児であっても、よい音の出し方を体得すればよい音で演奏することができます。
幼児のための“二段階導入法”テキスト『プレ・ピアノランド』または、『ピアノランドたのしいテクニック㊤』で、次の事柄を学び、よい音を体得します。
身体各部の緊張と脱力の体験
↓
手のフォームを整える(必要最低限の筋力をつける)
↓
指の独立、動かし方を体得
↓
指先の鍵盤に触れる面の中心点“タッチポイント”の使い方を学ぶ
↓
ピアノで演奏をする
【二段階導入法】
次回詳しく述べますが、最終的にピアニストのように美しくピアノを弾くために必要な要素を取り出し、幼児に楽しくピアノを弾く準備をさせる60のメニューを用意しています。
それは、〈聴く〉〈歌う〉〈動く〉〈見る〉というカテゴリーに分かれており、カテゴリーごとに上達、連携を進めて力をつけていく方法です。
第一段階で60のメニューを楽しくマスターできてから、第二段階のピアノの演奏に入るので、無理なく、悪い癖をつけること無く、美しい音色で演奏することができるようになります。
【カウンセリングレッスン】
「“カウンセリングレッスン”とは、レッスンでのコミュニケーションの方法をセミナーで提案するために私が考えた造語です。“カウンセリング”とは、悩みを持つ人の話を聞いて解決のための手助けをすることです。その“カウンセリング”と“レッスン”をつなげることによって、レッスンでの先生と生徒の関係がより明確になると考えたのです。」と『ムジカノーヴァ』2000年11月号に書いています。
この「カウンセリングレッスンを始めてみませんか?」という22ページにも渡る大特集は当時の編集長さんの大英断で、この考え方に深く共感してくださって、特集丸ごと私に編集を任せていただくという、画期的な企画でした。先生と生徒との新たなコミュニケーション方法の提案は話題となり、これ以後“カウンセリングレッスン”という新たな言葉を使ったセミナーで各地を回り、この名前と考え方は少しずつ広まっていきました。先生の言うことに従うのが当たり前だった昭和の習慣を変えていくための、私なりの大きな一歩を踏み出した時期でもありました。
“カウンセリングレッスン”の手法は多くの指導者に支持されるようになり、その根底にある考え方や、年齢によりどのように応用したらよいかの会話例を2006年に書籍にしました。→『ピアノを教えるってこと 習うってこと』(音楽之友社)
どんなによいメソッドがあったとしても、伝え方の技術がなければ上手く伝えられません。
音楽で幸せな時間を持つこと。それが、私の願いです。
“カウンセリングレッスン”という言葉に託したのは、カウンセラーのように、ディレクターのように先生が接することにより、習う人が自ら音楽に向き合い、上達していく、つまり「自立していってほしい」という願いです。先生に丸をもらうために弾くのではない、自分の音楽のためにピアノを弾く子供を育てていくためには、どうしても広めていきたい考え方だったのです。
●ピアノランドメソッドの全体像
ピアノランドメソッドにはどんな本があるのか、その体系を図でご紹介します。
まず、小学生(中学年、高学年以上くらい)がピアノランドを始める場合です。
メインテキスト『ピアノランド①②③④⑤』
テクニック教材『たのしいテクニック㊤㊥㊦』
併用曲集 発表会用曲集『ピアノランドコンサート㊤㊥㊦』
(各本については、出版物のページをご覧ください。次回から、詳しい解説をしていきます)
次に、幼児がピアノを始める場合のシステムです。
幼児の場合は、『ピアノランドたのしいテクニック㊤』をそっくり、『プレ・ピアノランド①②③』と入れ替えて使います。
メインテキスト『ピアノランド①②③④⑤』
幼児用 二段階導入法テキスト『プレ・ピアノランド①②③』 ▶︎ テクニック教材『たのしいテクニック㊥㊦』
併用曲集 発表会用曲集『ピアノランドコンサート㊤㊥㊦』
まずは、ピアノランドメソッドがどんな楽譜で構成されているのかご覧いただきました。
(実は、これに、昨年出版した『耳を開く 聴きとり術 コード編』も加わるわけなのですが…。
ゆくゆくは、他の予定もございます)
連載第1回目は、「ピアノランドの教え方」というよりは「ピアノランドに出逢ったみなさまへのご挨拶」という形になりましたが、いかがだったでしょうか?
次回からは、「ピアノランド」をどのように使って教えていくと効果が上がるのか、具体的に話を進めていきます。
毎月5日、20日に更新予定です。お楽しみに!
公開日:
最終更新日:2020/11/25