第21回 『ピアノランド』4&5巻で伸ばす“感性”とテクニック 〈様々な音階〉
前回に続いて、この何回かで『ピアノランド』4&5巻の楽曲から学べる事柄を挙げていきます。
ピアノランドの目的の1つに、「世界中の様々な音楽へ通じる道を開いていく」ということがあります。
音と音の組み合わせによって様々なメロディや和音ができるのはご承知の通りですが、それでは、「その組み合わせによってどのように変化するのか」ということを教えている人や本は少ないように思います。
曲の素材である音の並び方“音階”の隣り合った音との音程関係が変われば、その音階、音列の特徴が変わりますから、当然、楽曲の世界観が変わります。
例えば「ドレミファソラシド」が、「ドレミ♭ファソラシド」となっただけで長調から短調に変わるのですから、たった半音の違いで昼と夜くらい光の当たり方が変化する、そのことを感じる“感性”と、それを弾きわけるテクニックを育てるためにはどうしたらいいのか。
子供達が、「今演奏している和音は、どのような音列から導き出されたのか?」という“問い”を持てるような教え方ができたら、どんなにステキでしょう!
そんなことを考えて作った『ピアノランド』は、ただ指を速く動かせるようになるのが上達という考え方でははなく、作品の理解力や表現力を伸ばしていくことに重きを置いています。
できるだけ少ない音数で、完璧な演奏を目指すことによって、音数が増えてもそれをコントロールできる力を養います。
では、今回も過去のピアノランドフェスティバルの中から、小原孝さんのとびきりの演奏をお楽しみください♪
また、今年のスケジュールはこちらにアップされていますので、ぜひ、お近くの会場で生をお聴きください!
そう、教材であっても、楽曲としての魅力にはこだわって作りました。
ピアノランドは練習曲ではく、「曲」であり“曲集教材”なのです。
目次です。
「ピアノランドマーチ」が変身! 「不思議の国のピアノランド」
音階とリズムが自然に馴染んでいく「ぶどぅるふぁー」
アップテンポのエチュードも音楽的に!「きたきつねのカップル」
●【全音音階に親しむ】「ピアノランドマーチ」が変身! 「不思議の国のピアノランド」
『ピアノランド』3巻の、この曲を覚えていらっしゃいますか?
連載第16回で取り上げましたが、ここで再度お聴きください。
動画「ピアノランドマーチ」『ピアノランド』3巻より
この曲のAメロを、楽譜でもご覧ください。
『ピアノランド』3巻より「ピアノランドマーチ」の冒頭のメロディ
この冒頭のメロディを“全音音階”にそっくり移し替え、別世界にお連れしましょう♪
「不思議の国のピアノランド」『ピアノランド』5巻より 演奏:小原孝
楽譜をご覧ください。
『ピアノランド』5巻より「不思議の国のピアノランド」
イントロは全音音階をクロスハンドで上行下行、不思議な絨毯を部屋中に敷き詰めるようなつもりで。
そして、3段目からはいよいよ例のメロディが、全音音階で演奏されます。
リズムも音の動きもアーティキュレーションも全く同じですが、音程関係を変えるだけで、楽曲は大きく色彩を変えました。
長音階に比べて2音少ない、5音だけで構成される全音音階の世界は、独特です。
4段目でメロディが左手に移ることで、さらに不思議さを増していきます。
ペダルによって倍音の効果をさらにアップさせて、思い切り不思議さを味わい、3巻の溌剌としたハ長調との差を味わってみましょう。
こうして、ドビュッシーが愛用した全音音階の世界にも、子どもの頃から自然に親しむことができますように!
●【沖縄音階と、独特のシンコペーション】音階とリズムが自然に馴染んでいく「ぶどぅるふぁー」
沖縄音階を使えば、日本人に苦手意識の強い「くうリズム」(タイによって作られるシンコペーションで、前の拍の後ろを「食う」ところからそう呼ばれている)をさらりとマスターできるのではないか!と閃いて書きました。
長音階の2番目と6番目の音を使わないことでメロディの動きに制約が生まれ、独特の味わいが生まれる沖縄音階。
「ぶどぅるふぁー」は、「踊る子供」という意味です。
「ぶどぅるふぁー」『ピアノランド』4巻より 演奏:小原孝
小原孝さんの生き生きとした演奏をお聴きいただきました。
楽譜をご覧ください。
曲中のタイは全て「くうリズム」です。
強拍が16分音符分、前に飛び出すようなイメージで演奏して、グルーブを作っていきます。
ミュージックデータを聴くと、太鼓や三味線のフレーズで沖縄のサウンドをイメージしやすくなり、「くうリズム」もすんなりと身体に入ってきます。
●【平行調の往復と、速いパッセージ】アップテンポのエチュードも音楽的に!「きたきつねのカップル」
イ長調と嬰へ短調という平行調の関係にある2つの調を行ったり来たりしながら、長音階と短音階のメロディがとても速いパッセージで絡み合うように演奏される曲です。
きたきつねのカップルが一面の銀世界を飛び跳ねながら戯れ、いつの間にか遠くへ去っていく、というイメージをイラストからも感じて演奏しましょう。
『ピアノランド』5巻より「きたきつねのカップル」
イントロ 長調ですが、長調の主和音とⅥm(平行調の主和音でもある)が交互に出てくる
Aメロ 長調
Bメロ 短調(Aメロの要素を模倣)
サビ 短調(途中、長調に解決?と思わせつつ)
Bメロ 短調
Aメロ 長調
後奏 長調(イントロを使って)
上記の構成を充分に理解した上で、16分音符を正確に、音程感を持って繊細に歌うように演奏できることを目標としてください。
「きたきつねのカップル」『ピアノランド』5巻より 演奏:小原孝
なんと自由で魅力的な演奏でしょう!
みなさんも、ピアノランドメソッドの曲を演奏するときにはいつも、「どのように表現するか」を第一に考え、「それを支えるテクニックを磨く喜び」を感じながら練習していただけたらと思います。
これらの楽曲のためのテクニックは、『ピアノランドたのしいテクニック』下巻に対応しており、web連載でもお伝えする予定です。
「この曲はどんな音階でできているの?」
「なぜ、その音階が選ばれたの?」
「どうして不思議な感じがするの?」
という問いを発することができる子供達を育てていくこと、音楽性とは何を指すのかを自分自身にも問いつづけていくこと。
そんな目標を掲げて、ピアノランドマスターコース、コード塾、ピアノランド勉強会、聴きとり術勉強会等を開催しています。
興味のある方は、ピアノランドメイトに入会して、ご一緒に勉強してみませんか?
次回は、2月20日にお会いしましょう!
公開日:
最終更新日:2016/02/06