第24回 音楽を歌わせるために大切な、強弱表現について
音楽を歌わせるには、とても自然な強弱の表現が必要です。
よい演奏には自然な強弱変化というものがあり、f や p と書いてあったからと言って、その部分の音符全てが同じ大きさで演奏されるわけではありません。
『ピアノランドたのしいテクニック』下巻では、強弱をコントロールするにはピアノの仕組みの理解が必要なこと、また、強弱コントロールの方法には様々なやり方があることを学び、状況に応じてその中から選んでいく必要があることを学びます。
さらに、音楽を自然に歌わせるために知っておきたい当たり前とされている約束事にも触れ、表現の引き出しを整理整頓する手伝いをします。
ピアノランドメソッドで学んだ子供達の演奏が生き生きとして面白いのは、言われた通りに弾いているだけではなく、音楽的な原則にのっとった上で自分らしく弾く術を身につけていくからではないかと思います。
合格することやミスなく弾くことが目標なのではなく、レッスンの中で音楽表現の幅を広げていく面白さに目覚め、弾きたい曲や作曲家に出逢ったり、音楽でコミュニケーションする楽しさに気づいていけたらいいですね。
そうすれば、結果としてミスは無くなり(ミスしたくなくなる!)、次の曲に出逢いたいと思うようになっていきます。
今回は、ピアノランドの強弱の教え方について話を進め、最後に、昨年のピアノランドフェスティバルでの小学生の演奏を聴いていただきます。
目次
●何となく、の強弱ではダメ 計画性を持ち緻密にコントロールする
●自然なアーティキュレーションで歌い、パートナーと感じあう演奏
●音楽で、言葉以上の意味を伝えるために
言葉の助けを借りながら表現力を育ててきたピアノランドですが、4、5巻になると歌詞の助け無しに、言葉では伝えられない何かを表現する勉強がスタートします。
日本語のタイトルや表情記号から受け取ったイメージ、テンポ表示、強弱記号を参考に、子供達は音楽を組み立てていきます。
そこで“二段階導入法”の頃から学んできた、「アーティキュレーション」のセンスが役立ちます。
アーティキュレーションにおいて一番大切なことは、音型をどのように表情づけるか、ということです。
具体的にはアクセント、テヌート、スラー、スタカート等個々の音のつながり方が大切なのですが、それを、楽曲全体の中でどのように作っていくのか、それが、解釈する人の個性、表現となっていきます。
言葉を発するときに、私達は誰にどんな状況で何をどのように伝えるかによって、声の出し方や表情を自然と変えていますね。
音楽を演奏するときにも常に、音楽をまるで言葉のように自然に伝えるにはどうしたらいいか意識することを教えていきましょう。
音楽で言葉以上の意味を伝えるために、演奏家は作曲家の考えを推し測り、実に細やかに“あらゆる可能性”を考えています。
和声の変化が及ぼす強弱表現については、マスターコースやコード塾で度々、しつこいほど講義していますが、多方面から音楽を見つめる姿勢で子供達と向かい合っていただけたら、彼らの可能性、伸びしろがもっと大きく広がっていくのではと思います。
●何となく、の強弱ではダメ 計画性を持ち緻密にコントロールする
『ピアノランドたのしいテクニック』下巻のレッスン3「音の強弱とタッチ」では、まず、ダイナミクスには無限の表情と可能性があることを教えます。
例えば、mf mp 等の強弱記号を見たときにどのような音のイメージを想像するかによって、出てくる音色、音質は変わってきます。
テキストでは、あたたかい、美しい、心地よい、落ち着いた 等の言葉を例として、他にどのような言葉が思いつくかを話し合うよう促していますが、実際に「やさしい」「穏やか」「平和」「眠たい」「お腹がすいている」「くらい」等の言葉が返ってきます。
それらの変化を、では、どうやって音にしていくかというところで、レッスンが始まるのです。
『ピアノランドたのしいテクニック』下巻 レッスン3「音の強弱とタッチ」より「強弱のコントロール」
このレッスンで、指(フィンガータッチでの強弱のつけ方)、手(ハンドタッチ〜)、腕(アームタッチ〜)の使い方を学びます。(p.18 19)
そして、物理的な法則を、下記のページで再度確認します。
『ピアノランドたのしいテクニック』下巻 レッスン3「音の強弱とタッチ」より「強弱のひみつ」
ピアノの音量が「ハンマーが弦を打つスピードによって変化する」という大原則を知っていれば、演奏に関係のない大げさなアクションは必要ないことがわかります。
つづくp21では、タッチポイントを鍵盤から離さないで重さをかけることで、エネルギーの大きさ、強弱をコントロールする方法を教えます。
このレッスン以降、子供達は考えるようになります。
音量を変えたいときに、どこをどのように使って、どのような雰囲気の音色にしたらよいのかと。
そのために必要な動きと、不必要な動きを理解します。
もしも、不必要な動きが癖になってしまった子供がいた場合は、次のことを参考にしてください。
ムダに身体や頭を動かすと、集音器官である耳を振り回すことになり、自分が出した音を冷静に聴いて判断することができなくなります。
「頭の上に、水が入った壷がのっていると思ってね。頭を振り回したら、あなたもピアノも水浸しで大変なことになるから、頭を動かさないで弾いてごらんなさい」と言うと、大笑いしながら自分が動いていたことに思い当たり、大方は治ります。
聴くことより動くことに気持ちがいってしまうと独りよがりな演奏になりますので、教える人は「気持ちを込めたつもり」の動作に注意しましょう。
●自然な強弱表現を目指して
例えば、楽譜に指示がなくても自然に行なわれる表現に、上行のクレッシェンド、下行のディクレッシェンド等があります。
大げさすぎるのはいただけませんが、ごく自然にこれらの表現があることが当たり前だと感じる感性を育てるために、このページがあります。
下記の曲はその一例です。
『ピアノランドたのしいテクニック』下巻 レッスン4 「メロディの歌い方のやくそく」より
ここにはわざわざ細かく強弱が書き込まれていますが、こういうときには自然にこうするのだな、とわかれば、次からこれらの強弱記号は必要なくなります。
作曲家が書いた原典板では多くの場合強弱記号は控えめですから(普及版には、校訂者が書き込んだ多くの強弱記号がつけられています)、子供達が将来、自力で楽曲を研究するときようになったとき「これは元々あった記号だろうか? 誰かがつけ加えた記号だろうか?」と考えるようになってくれたら嬉しいですね。
音楽と切り離したテクニックはない、と言ってよいと思います。
音楽は音楽で教える。
これが、子供達を一日も早く自立させる方法ではないかと思っています。
●自然なアーティキュレーションで歌い、パートナーと感じあう演奏
さて、ピアノランドメソッドで学んだ子供達がどのように成長していくのか、昨年のピアノランドフェスティバルの録音応募プロジェクトで選ばれた子供達の、本番での演奏を紹介します。
ピアノランドの教え方 第24回のテーマ「音楽を歌わせるために大切な、強弱表現について」にふさわしく、とても自然に音楽を歌わせています。
セコンドの伴奏の音をよく聴いて反応していますし、合わせるだけではなく、自分の歌い方、意志のある演奏がとてもいいと思います。
何より、強弱表現、アーティキュレーションが自然で、連弾した私も楽しむことができました。
ピアノランドフェスティバル2015 熊本会場 月俣麻美(小4) 『ピアノランド』5巻より 「Dreaming」
ピアノランドシリーズの他、録音応募プロジェクトの課題曲になっている『こころの小箱』の連弾曲をお聴きください。
5巻を勉強する頃には充分演奏できる曲で、ピアノランドで学んだ子供達に人気の曲です。
ピアノランドフェスティバル2015 名古屋会場 阪田朱唯斗(小6) 『こころの小箱』より「明日はいい日だ!」
『こころの小箱』音楽之友社
樹原涼子ピアノ曲集CD「こころの小箱」2枚組み 演奏:樹原涼子/樹原孝之介/小原孝
ピアニストがしている当たり前のことを、子供達も目指してよいのです。
子供達の当たり前が少しでも進歩して、ピアニストに近づいていくように!
たとえ易しい曲であっても、その完成度が高くなければ、ピアニストの演奏には永遠に近づくことはできません。
自分自身の上達が何よりも楽しみになるような学ばせ方、レッスンができればと思います。
★この機会に、YouTubeの ピアノランドwebをご紹介します。
これを「お気に入り」に入れてみてはいかがでしょうか♪
この連載で取り上げたお手本映像の他、ピアノランドフェスティバルでの小原孝さんの演奏、選ばれた子供達の演奏など、これまでに私がwebの中で紹介したものがご覧になれます。
★お近くのピアノランドフェスティバル、そして、プレ・セミナーにどうぞお出かけください。
東京以外の各地での公演は25周年の今年で一区切りとなります。
チラシとスケジュール欄をご覧ください。
(熊本のみ、地震の影響でピアノランドフェスティバルの開催が未定です。会場、日程を変更することもありますので、時々webをご覧ください。なお、熊本のプレ・セミナーは予定通り開催いたします。録音応募プロジェクトの締め切りは、6月10日(金)まで延長しています)
強弱表現の奥深さを、日々のレッスンで楽しんでいただけますように!
お元気で♪
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