第17回 リズムのエネルギーを表現する〜休符の感じ方&ポリリズム〜
今回は、“リズム感”をテーマに話を進めます。
リズムは、ただ正確であればよいという訳ではありません。
リズムをいかに感じ、いかに表現するかによって、音楽は大きく変わります。
レッスンのときはいつも、「リズムの持つエネルギーを余すところなく表現できているか」にスポットを当てて教えていきたいものです。
リズム感の向上を目指すとき、忘れてはならない、大切な要素があります。
まず、同じ速度を保つことができるイン・テンポの感覚。
これは、音楽の鼓動とも言える、大切なものです。
同じ速度を難なくキープできれば、テンポをコントロールするセンスを育てることができます。
そして、拍子感。
指揮者が、オーケストラの前で指揮棒で表すのは、まず、テンポと拍子です。
さらに、音楽が平坦にならないために必要なのが、音楽を前へ前へと運んでいく推進力、ドライブ感。
優れた指揮者は、テンポ感、拍子感、ドライブ感によってオーケストラを束ねて方向性を示し、聴衆の心をどこへでも連れて行ってくれます。
このような背景の上にリズムの表現がある、ということを忘れず、 音楽を教えながら、ピアノを教えていきましょう。
ピアノランドメソッドでは、リズムの感じ方、休符の感じ方、リズムの組み合わせの面白さを表現するために、『ピアノランドたのしいテクニック』中巻で様々なレッスンを行ない、『ピアノランド』の曲の中で表現する喜びを実感します。
目次です。
●リズムボールで休符を感じると、音楽は魅力的になる!
休符があるからこそ、音楽は生き生きと輝きます。
音のない時間が、音楽に命を与えます。
休符を「音がない休み」だと感じてしまうと、そこで音楽が途切れ、緊張感が失われてしまいます。
そこで、ピアノランドでは休符があることをいかに魅力的に表現するか、をレッスンします。
『ピアノランドたのしいテクニック』中巻より レッスン16 休符の感じ方
2小節目の休符は「1拍の休みが3つで ∨∨∨」と考えるのではなく、ピアノランドの“リズムボール”の概念を応用して、「3拍の休符が1つ。大きなボール(空間)をイメージする」と考えます。
休符は音が「ない」ことによる一種の緊張状態であり、音楽は休みなくつづくこと、そして次の音へと正確に届けることが休符の役割であると教えましょう。
「かわいいおはなし」『ピアノランドたのしいテクニック』中巻より
※リズムボールの教え方は、“二段階導入法”で取り上げています。 →第8回「第一段階の仕上げです!」参照
この練習を応用して、「たからのダンジョン」を演奏してみましょう!
プリモとセコンドで付点音符をゆったりと感じ合い(1の指タッチポイントで鍵盤を捉え、指のつけ根にゆったりとのるように)、つづく8分音符のクレッシェンドは「かざぐるま」で学んだ手首の使い方で歌い込むように重さをかけ、長い休符は“休符の空間”を感じ合い(上記)、リズムの感じ方、表現方法をパートナーと共有して音楽を作っていきましょう。
『ピアノランド』3巻より「たからのダンジョン」
「たからのダンジョン」『ピアノランド』3巻より
次は、★2「トリルとのエチュード」(楽譜は上記)をご覧ください。
3拍子の曲で、1、2、3拍目のどこに休符を入れるかで音楽のニュアンスが変わることを経験させ、3拍子の拍子感を育てながら、上手に休符を感じる練習をします。
また、短3度と長2度でのトリルの予備練習にもなっており、タッチポイントで鍵盤をつかみ、音程を感じながらきれいに演奏できたらテンポを上げていきましょう。
このように、本書は、短い曲に集中して取り組み、同時にいくつかの目的をクリアしていくことを目指しています。
主和音と属七の繰り返しであることを意識して和声感覚を育てることや、移調して黒鍵の位置を変えて練習することで白鍵と黒鍵の高さ、鍵盤を下げる深さを敏感に感じ取り、コントロール能力を上げていくこと等、習う人のキャパシティに合わせて指導してください。
「トリルとのエチュード」『ピアノランドたのしいテクニック』中巻より
●グルーブ(ノリ)を共有して、弾く人も聴く人も楽しく♪
それでは、『ピアノランド』3巻の人気曲「コロコロ コロッケ」をご覧ください。
『ピアノランド』3巻より 「コロコロ コロッケ」
このように、ドラム、ベース等と一緒に練習した方が断然効果が上がる曲については、ミュージックデータとの練習をおススメします。
イン・テンポで、楽曲のグルーブ(ノリ)をマスターするためにも、他の楽器、特にドラム、パーカッション、ベース等リズムを担当する楽器を聴きながら弾く練習が有効です。
慣れない間は、ミュージックデータで練習と言っても、ただ一緒に弾くだけで終わってしまいがちです。
例えば、
2)それに合わせて、メロディラインを音楽的に、ノリノリで歌ってみる。ドラムと縦の線がぴったり合うように!(プリモは再生してもよいですね)
3)ドラムに合わせて、プリモを演奏する。そのときに、ドラムのどの音を聴けば次の音に正確に入れるのか、目印になる音の聴き方に注意する。弾くことに夢中にならず、聴くことに半分以上神経を集中させる練習を。
4)上手くいったら、オーケストラパートも再生しながら演奏する。音数が増えても、リズムセクションを聴きながら演奏できるよう、注意深く練習する。
これは、子ども達に限ったことではなく、伴奏する先生方は、予めプリモもセコンドもミュージックデータと練習して、他の楽器と共演する練習をしておきましょう。
・プリモのメロディラインを主役らしく弾くこと
・プリモの左手 メロディと伴奏の役割を瞬時に入れ替える「変身ポイント」で、タッチを変えるよう促す。(歌い始め2、4小節目の前後等)
・プリモ左手とセコンド右手で一体となってコードを刻む「1.「2. の音型では、タイミング、タッチ、ハーモニーを共有してドライブ感を持って弾く
弾く人に曲を楽しむ余裕が生まれると、聴く人も楽しんで聴けるようになります。
1曲1曲を心から表現できるまで深めていけたらいいですね。コロッケが食べたくなるように♪
●リズムの組み合わせの魔法 ポリリズムを表現して楽しもう!
ポリフォニー(多声音楽)は複数のメロディが同時進行していきますが、ポリリズムは複数の異なるリズムがそれぞれに進行していきます。
★1「どんなときも」では、3拍子の中を2つに分けるリズムで3:2のリズムを、さらに、2小節間で2倍の3拍子となる「ヘミオラ」を学びます。
★2「みんなともだち」では6/8で「ヘミオラ」を、★3「ひとりぼっち」では一定のテンポの中で1拍を2分割、3分割する練習。
★4「あしたへのみち」では、メロディ、バッキング、ベースのリズムを同時に感じられるようにパートごとにマスターしてから、いろいろな組み合わせでリズムを表現する練習。
『ピアノランドたのしいテクニック』中巻より、レッスン19 リズムのくみあわせ
ここでは、リズムの組み合わせ例として、「どんなときも」の練習方法をご覧ください。
「どんなときも」『ピアノランドたのしいテクニック』中巻より
このレッスンの応用編として、ポリリズムづくしの人気曲をご覧ください。
『ピアノランド』3巻より「ともだちになりたい」
ステキな演奏のためには、3拍子の拍子感を演奏中忘れないでキープしておくことが大切です。
前半はプリモの右手が2拍目を2分割した3拍子のメロディを奏で、左手は2拍子を感じます。
セコンドは、プリモ左手を助けるような音型ですね。
後半は、ぼんやりしていると6/8のように見えますが、プリモはあくまでも3拍子を演奏していることを忘れてはいけません。
セコンドは16部音符で1小節を4つに分ける効果音的な役目となりますので、プリモが3拍子をキープして演奏しなければポリリズムが成立しなくなります。
この曲も、ミュージックデータを使って各ラインを丁寧に表現する練習をして、ポリリズムを楽しめるところまで身体にリズムを入れましょう。
テクニックやピアノランドの曲の中に散りばめられた様々な要素を積み上げていくと、このような力をつけていくこができるので、子ども達は『ピアノランド』3巻後半あたりから、バロックの小品等をとても楽しんで、素晴らしいリズム感で演奏できるようになっていきます。
それでは、昨年のピアノランドフェスティバルの映像から、小原孝さんとの連弾をお聴きください。
「ともだちになりたい」『ピアノランド』3巻より
いかがでしたか?
教える側がしっかりしたプランをもって、子ども達にも何のために何をしているのかを理解させながら、音楽の喜びを味わいつつ成長していけるよう、頑張りましょう!
次回、11月5日のweb連載は、番外編となります。お楽しみに!
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