番外編 ステージで『ピアノランド』を弾く、ということ
いよいよ明日、8月21日がピアノランドフェスティバルの東京公演、さくらホールでツアー最後のコンサートとなりました!
今回は番外編として、「ステージで『ピアノランド』を弾く、ということ」について、書くことにしました。
初歩のピアノ教材である『ピアノランド』の曲を中心に、毎年コンサートを開いていますが、改めて考えてみると、これはとても特殊なことかもしれません。
ピアノランドフェスティバルの1曲目は、必ず「どどどど どーなつ」。
たった1音を弾いているだけにもかかわらず連弾の伴奏パートによって、お客様に聴いていただける「音楽」になっている驚きを、まずは体験していただきたいのです。
「ド」が32個並んでいる、たった8小節の曲が「ピアノランド」の原点であることを、小原孝さんの輝くような「ド」の音色で聴いていただき、ステージは幕を開けます!
私は、その8小節をいかに彩るか、工夫に工夫を重ねて書いた伴奏パートで、32個の「ド」の意味を立体的に表現しようと演奏しています。
実は、ピアノランド全体の中で、この曲が一番難しいかもしれないというのが、小原さんと私の感想です。
ステージで、この曲が上手くいくとほっとします(笑)!
子ども達は、リビングや子供部屋、レッスン室でいつも弾いている曲を、広いコンサートホールの響きの中で、パワーのあるグランドピアノで、一流のピアニストである小原さんと作曲者の演奏で聴きます。
慣れ親しんだ曲が、自分の演奏とどこがどんな風に違うか、耳をそばだてています。
そんな中で演奏する一音一音は、とても大きな意味を持っているので、真剣勝負です。
脱力した美しい音色。
その場にふさわしい抑揚をもった意味のある音型を奏で、音だけからも言葉のようにメッセージがあふれるようにと、隅々に気を配ります。
その音型やフレーズの意味を、プリモとセコンドパートが表現して、感じ合い、聴き合いながら、一緒に音楽の流れを作っていくところを、目の前で聴く、味わう体験を通じて、子ども達が何を感じてくれるか。
そして、小原さんと私がピアノを弾きながら歌うことで、“ピアノで歌うためにはまず、声を出して歌うこと”が大切だということも伝えているつもりです。
お互いに主張し合い、聴き合い、溶け合い、並んだり引っ張ったり支えたりしながら、音で会話していくところを聴いて欲しい、見て欲しいと思っています。
それが、ピアノランドフェスティバルの大きな使命の1つではないかと考えています。
人前で弾くということは、心に秘めているだけでは伝わらないこともあります。
「自分はこう弾いたつもり」と、「演奏としてこのように伝わった」ことの間にある溝を、子ども達が少しずつ埋めていくのが楽しみになるよう、いつも演奏している曲をコンサートで楽しんでほしいと切に思います。
遠くの人にも伝わるように弾こうとして、つい力がはいってしまう子どもも多いですが、遠くに届けるためには腕の重みを上手に利用して脱力することが大切です。
今年は、その脱力をテーマに、会場の子ども達と一緒に脱力の体操をしたり、「爆笑レッスン」のコーナーで「小原くん」を特訓したりしています。
毎年、どの会場でも子ども達が大興奮、爆笑の渦になるこのコーナー。
実は、ピアノを弾くことにおいて大切なことを伝えようと、作曲家とピアニストが真剣に取り組んでいるのです。
西宮公演にサプライズで登場したくまモンも、見事な腕の脱力を披露してくれました!
演奏とは指を動かすことでは有りません。
心の動きを音として表し、それが会場に伝わって、聴いている人の心を動かすものです。
そんなことも伝わったら嬉しい、と思いながら、演奏しています。
それでは、9月5日に、web連載のつづきをお届けいたします。
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