終わってわかった レッツプレイ♪ピアノランドの意味

終わってわかった レッツプレイ♪ピアノランドの意味

「君がすることはいつも、これまで誰もやっていないことが多いから、最初はみんな、どんなことをするのかイメージしにくいんだよね。みんな見たことも聞いたこともないから、わかってもらうのが大変なんだよね。

だけど、「レッツプレイ♪ピアノランド」がどういうものか、こうして一度みんなに見てもらえたら、これまでにない素晴らしいイベントだってわかるから、今度は見て、感動した人たちが誰かに「よかったよ!」って伝えてくれるんじゃないかな。

本当に、1回目は大変だったけど、やってよかったね。おめでとう!」

と、カワイ表参道からの帰り道、運転しながら夫がこんなことを言ってくれました。ちょっと嬉しい。

 

 

そうですね、これは公開レッスンではありません。

いわゆるコンサートでもないし、

セミナーとも、ワークショップとも違います。

本当だ、ぴったりの言葉がない! 笑!

「演奏について、あるいは子供が作った曲について、樹原涼子が一人一人にアドバイスをしているところを見ていただく」のがメインで、順位はつけないし、公開レッスンでもないのです。

 

自分が子供だった時に、こんなイベントがあったらどうだったでしょう。きっと、とても嬉しかったに違いないと思います。一人一人の子供達の心に、音楽の素晴らしさが息づくよう、今の私にできる精一杯のアドバイスを、出し惜しみせず、子供だからとあなどらず、全力で伝えた1日でした。

 

「おいしいきのこさん」演奏後にアドバイスを聞く、Aグループ出演の毛利恵奈ちゃん。

(どの写真も、保護者の許可をいただいて掲載しています)

 

演奏が終わった子供達は、私の目を見てアドバイスを聞き、私の質問に答え、自分の演奏の良かったところや改善すべき点についてどんな風に納得したか、それが会場のみなさんに伝わるのです。昨年まで開催してきた「録音応募プロジェクト」の場合は、何回も演奏を聴いて一生懸命コメントを書きましたが、それをその子が読んで理解できたかどうか私にはわからないですし、子供にとっては1ヶ月以上も前の演奏についてのコメントで、忘れていることもあるでしょう。先生に真意が伝わったとしても、保護者にまで的確に意味が伝わるかどうかはわかりませんでした。

だから、「その場でその子の目を見てアドバイスができる」、というのは、私にとってとても大きな違いです。そして、作曲した意図や、練習方法のアドバイス、ホールと自宅やレッスン室との違い等々、その子へのアドバイスを会場にいる多くの方にも同時に伝えることができる!

 

面白いのは、子供がアドバイスを理解したかどうかが、会場のみなさんにも手に取るようにわかることです。その子にわかる言葉を考えながら、本当に伝わった瞬間、会場の皆さんからもあたたかい応援の気持ちや拍手が贈られます。なんというか、「自分の音楽的成長を喜んでくれる人がこんなにいる!」という体験は、子供にとっても凄いことかもしれません。

とくに、我が子以外の演奏を聴いてアドバイスまで聞くのは、保護者の方にとって滅多にない機会かもしれません。我が子を客観的に聴いたり、見たりするのは難しいことですから。しかも、「何位になるかしら、選ばれるかしら……」という心配なしに、ただ、「音楽がどうだったか」「作った曲がどうだったか」を中心に話が進んでいく、音楽のための1日。なかなか珍しいと思うのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

●演奏へのアドバイス

このイベントの特徴は、『ピアノランド』他、樹原涼子が作曲した曲についてのアドバイスが聞けることです。『ピアノランド』シリーズ以外のピアノ曲集はもちろん、『The Four Seasons ベスト・セレクション』の中から弾き語りをした子供もいれば、モードを散りばめた近現代風の作品を弾く子供も。ソロでも、連弾でも、ミュージックデータとの演奏、弾き語りでもよいので、なかなかバラエティに富んでいます。(というか、ノンジャンルに「音楽」という仕事をしてきましたから、樹原涼子の作品といっても様々あるのです)

 

普段、作曲者からのコメントをもらう、ということはなかなかないと思うので、この体験を通じて、「演奏するというのは作曲家とコンタクトを取るということで、それをお客様に伝えるということなのだ」と知ってもらえたらと思います。そう、これ以降は「ベートーベンはどういうつもりでこれを書いたのかな?」「サティの曲って、ここが面白い!」「この部分って、《ドリアンボートに乗って》と同じサウンドだから、モード?」とか、そんなことを考えて演奏してくれたら嬉しいなと思います。

手の使い方、テクニック的なことも沢山アドバイスしますが、それはあくまで、「音楽を表現する上で必要だから」という、その「音楽的な理由」を大切に伝えます。

 

写真は、Aグループで姉弟連弾で「もりのまつりだ」を演奏した佐々木謙太くんと沙緒さん。「ピアニストにとって大切なことは何ですか?」とか「先生の人生はコードに例えると何ですか?」「難易度が高くなっても、曲に手が追いつくようにするにはどうしたらいいですか」等、真剣に答えざるを得ない質問がいっぱいで、あっぱれでした!

 

 

佐伯伶奈さんは、吉田千明先生と「バースデイソング」を生き生きと連弾しました。アドバイスの後は記念の受講カードを渡すのですが、なんと先生も「パートナーとしてアドバイスをいただきたい」とのことで、それぞれに参加カードを手渡してパチリ。笑顔が弾けます。

 

「たからのダンジョン」をミュージックデータと一緒に演奏した岡本織月さん。憧れの曲を人前で、素敵なホールで演奏して大満足と同時に、次への目標もしっかりと受け止めてくれました。

 

 

ほんの一例しか紹介できませんでしたが、どのお子さんも本当に真剣に音楽に向き合い、その姿は「尊い」と思えるほどでした。一心不乱に演奏に集中するときを持つ、とは、何と幸せなことでしょうか。参加してくださった皆様、ご指導された先生方にも、心から御礼申し上げます。

 

 

●作曲へのアドバイス

作曲での出演は、ピアノソロ曲、歌詞付きの曲で弾き語りをする子もいて、力作揃いでした。歌詞に実感がこもっていたり工夫のあるもの、ピアノ曲は映画やテレビゲームの1シーンを想像させるような曲もありました。

 

出版社の編集者さんは、「子供の曲、凄かったですね。普通に現代音楽していましたね!」と驚かれていました。そうなんです。ピアノランド育ちのみんなのセンスといったら……。高野絢さんの「ぼうけんの花」という曲は歌詞の力で曲をぐいぐいと引っ張っていきましたし、兼子望さん「黄金の砂 白銀の城」は短い曲ながらタイトルの不思議な雰囲気がよく出ていました。自分の内側と向かい合うのが作曲です。何かを創るということは、その孤独な作業に喜びを覚えるところから始まります。

今は、作る面白さを体験することが一番重要な時期で、作品に赤を入れる必要はありません。曲のインスピレーションの源は何か私が質問したり、客観的にどこがどのようによかったか、「その曲の特徴は何か」を私が解説するのが中心です。

なぜなら、子供は、自分から生まれたものを書いただけなので、どこがいいのか、自分ではわからないことが多いのです。よいところを聞けば、もっとこうしたい!という意欲が湧き、次の作品にはその良さを意識することができます。自分の強みを知ることは大切。そうする中で、自分で自分の足りないところを発見していくことができます。

 

グループBで作曲で出演、「大桜の夜」のアドバイスを聴く足立優妃さん。曲ができてからタイトルを考えた、とのことで、素敵な雰囲気の曲でした。

 

 

作曲は、「こうしなさい」と言われてそうしたところで、そこであっさり音を変えてしまうようでは作曲家にはなれませんし、私も、作曲家として安易に「その音をこれに変えなさい」とは言いたくありません。言うべきではないと思います。(ここは、こう書きたかったけど書き間違えてない?というケースは指摘しますが)

作品は、和声や対位法の課題ではないのです。作品として子供が書いたものは、それだけで素晴らしい。無から有への一歩を歩んでいるという、簡単ではないことをしているのですから、どんな曲でも尊重されるべきです。

小学校3年生以上の子供は、ほとんどコードネームや和声記号も書き込んでいて、日頃のレッスンで響きの推移を大切にすることを学んでいることがわかります。先生方が勉強していらっしゃるのですね。作曲することの利点は、自分が作ってみると、他の人が作ったものがよりよく理解できるようになる、演奏表現が上手くなる、という点です。

 

小学校2年生の木部桜子さんは「♡おかあさんとおとうさん♡」という世にも愛らしい曲を作っていました。その時期にしか書けない曲に出会えることもまた、大きな喜びです。

そうそう、これまで「録音応募プロジェクト」に参加していた子供の中から、音大で作曲を学ぶ人が出てきたと報告をいただいています。このように、沢山の曲を生み出せる力を身につけてから作曲の勉強をスタートすればよいのです。作らないうちに能書きだけ学んでも、「生み出すことの喜び」を知らなければ作曲の道は歩めません。「レッツプレイ♪ピアノランド」の作曲部門は、音楽を作り出すエネルギーに火をつけ、聴いていただける喜びを体験させ、応援するのが目的です。

あ、つい熱く語ってしまった!

 

「レッツプレイ♪ピアノランド」では、これらの作品への個別のアドバイスをみんなで聞くという時間も大切にしながら、「作る人がいなければ演奏すべきものが生まれない」ということも伝えています。

 

 

●上達のコツ

レッスンというのは、意外とマンネリ化してしまうものです。つい、次のページをめくっただけでレッスンは成立してしまいます。

そんなときに、「この時期には何が大切だったか思い出しましょう!」というコーナーはいいかも!と思いました。グループ別に、「固定5指のポジションできれいに弾くコツ」「速いパッセージをを弾くコツ」「感情表現のコツ」というテーマを決めてミニセミナーのようなコーナーを作りました。

大きなスクリーンに映し出されるので、私の手の動きを見ていただきながら具体的なコツを伝えられてとても助かりました。子供達が自分でノートをとっていたことも印象的です。

させようと思っていることは、子供は敏感に「したくない」けれど、大人が本気で取り組んでいることには、実は興味があるのですね。強制されないところで、自分の意志でスタートすることほど、身につくことはありません。

 

 

●樹原涼子&孝之介 ミニコンサート

こちらも、グループ別にテーマを決めて選曲しました。

Aグループ ♬連弾は楽し~い♬

Bグループ ♬聴きあい、響きあう連弾♬

Cグループ ♬美しい響き&ペダリングを聴いてね♬ (連弾とソロ)

それぞれにふさわしい曲を、3つのグループでのべ18曲演奏しました!

 

大人の本気を見せるって、とても大事なことなんですよね。さっき子供達が演奏したShigeru Kawaiは、本当はこんな音も響きも出せるのよ、音楽にはこんな表現もあるのよ、ということを知ってもらいたい。作曲で応募した子供たちには、様々なテイストを知ってもらいたいと、『ふたりで弾こう!ピアノびっくり箱』1&2からシューベルトやチャイコフスキーの有名な曲を2通りのアレンジで、そしてピアノランドや連弾組曲集『時の旅』から、『やさしいまなざし』『こころの小箱』「いだてんメインテーマ」等も、演奏しました。

3つのグループで別プログラムなので、ちょっと大変でしたが、3つとも聴いた人はとても喜んでくれたのでその甲斐がありました。

特にCグループでは、組曲「美しい時間」から「星の時間」を連弾しましたが、ピアノの調整も素晴らしく、ピアニッシモの中の限りなく美しい表情や揺れ動くメロディとメロディのコントラストが演奏していて楽しく、きっと客席にもそのニュアンスが届いたのではと思いました。大河ドラマ「いだてん」の賑やかなテーマの連弾の後、スローバージョン(ソロ)を孝之介が演奏したのも、とてもよかったようです。同じメロディが2つのバージョンでこんなにも変化させることができる、という編曲上のテクニックと、演奏するハートの違いも伝わったと思います。

「いだてんメインテーマ」は、大友良英さん作曲、江藤直子さん編曲。ピアノを知り尽くした江藤さんのアレンジ、とても素敵です。メインテーマについて、江藤さんも「譜面をもとに演奏者が自由にアレンジして楽しんでもらえると何よりです」と仰っていますから、それぞれのテクニックや感性を大切に演奏してみてくださいね! 本番でやったように、ラストに「いよ〜 ポン!」と、掛け声と鼓のように手拍子を打つのもおススメです。

 

こちらが、当日持参した楽譜たち。(1冊だけ、日本で発売されていない楽譜を混ぜてみました! 笑)

 

カワイ表参道の楽譜売り場には、大河ドラマ「いだてん」の楽譜と、「いだてん」の主人公の金栗四三の伝記『走れ二十五万キロ 金栗四三伝』(私の父、長谷川孝道の最後の本となりました)、そして私の『樹原涼子からあなたへ“贈る言葉”300選 もっとピアノが好きになる!』が並べてあって、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

 

 

そして、最後に、熊本勉強会のみなさんが2013年、2015年に主催してくれた「レッツプレイ♪ピアノランドin 熊本」がきっかけで、今回のイベントを企画したことをしっかりと書き留めておきます。熊本では、出演者全員にコメントをその場で書いたものを、素敵なカードにプリントしていただいたのでした。このときの宝物のような思い出と、そのエッセンスが、新たに今回の企画につながりました。企画、運営してくださった皆さんへ、感謝の気持ちが溢れます。ありがとうございました!

6月16日(日)には、汐留ベヒシュタインサロンにて、「レッツプレイ♪ピアノランド in 汐留」を開催いたします。まだ、演奏者も聴講者も募集中です! 今回見逃した方はぜひお出かけくださいね。

その後、8月7日(水)にカワイ名古屋で「ぷちピアノランド名古屋」のみなさんの協力で、そして9月1日(日)に大阪の三木楽器開成館で「ぷちピアノランド♪関西」のみなさんの協力で、それぞれ「レッツプレイ♪ピアノランド」を開催いたします。ご案内のページ、チラシとも制作中です。お近くの方は、ぜひ、予定を空けておいてくださいね!

 

最後に、初の試みである「レッツプレイ♪ピアノランド」を様々な工夫で応援してくださったカワイ表参道の甘利さん、コンサートと同じように丁寧な調律で子供達に素晴らしい響きを経験させてくださった調律の小野寺さん、楽譜や書籍を取り揃えていただいた中條さん他、楽器店の皆様の応援に心から感謝申し上げます。

 

 

樹原涼子
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