どうして、「えいごでピアノランド」を作ろうと思ったのか
今年の春、DVD「えいごでピアノランド」を音楽之友社から発売します。
ピアノランドシリーズはこれまで沢山の挑戦をしてきましたが、今年の大きな挑戦は「英語」です。
今は、DVDの発売前の様々な作業に明け暮れていて、まさにプレスに入るまでの体力勝負の局面に入ってきました。
映像編集のチェック、パッケージやブックレット作り、それに伴うチラシ、発売記念セミナーの企画とチラシ、告知、雑誌へのお知らせ、インタビュー等、数限りなく仕事が湧いてきます。
新型コロナの影響でレッツプレイ♪ピアノランドや勉強会が次々に延期になり、さらに自粛要請が発表され先が見えない中で、唯一、発売できることだけは間違いないので、スタッフ一同気合が入ります!
ブックレット原稿を上げてデザイン待ちの間に、そうだ!
私がなぜ、DVD「えいごでピアノランド」を作らずにはいられなかったか、お話しよう!
そのことを、昨年のピアノランドメイトに書いていたっけ……。
DVDの発売前に、たくさんの方にその理由を知っていただけたら……と思い、エッセイの一部を、この日記に転載することにしました。
ピアノランドメイトには、例えばこのようなエッセイや、ライターさんによるセミナー、コンサートの詳細レポート、勉強会やイベントの告知、樹原涼子のおススメコーナー、YouTubeと連動したミニセミナーのページ、ちょうど今は青柳いづみこ先生との対談の連載を掲載しています。
2020年の会員募集中なので、よかったらどうぞ♡
では、ピアノランドメイトvol.106からの抜粋(加筆訂正しています)をご覧ください。
Webページでは、段落の頭を1文字下げることができないので、段落ごとに間を空けています。
環境があればこそ 花開くこともある
寝たきりの母に「小さい頃からピアノを習わせてくれてありがとう!」というと母はまばたきをして頷いてくれます。「孟母三遷」と言いますが、母の眼鏡にかなう先生に出逢うまでの記憶(他の先生のレッスン)を辿ると、娘のために先生を選んでくれたことへの感謝の気持ちが溢れます。その環境のおかげで、私はピアノや作曲が大好きになって今があるわけで、「環境」の果たす役割の大きさをつくづく感じます。
八戸澄江先生の教室に入門できたこと、母もそこでコーラスを始めて父の転勤先でもコーラスをしていたこと、私が小・中学生の頃は毎月音楽会に連れて行ってくれたこと、夢中になって何度も読んだ文学全集やその他の本が沢山あったこと、父がよく美術館に連れていってくれたこと等、今の私はその環境に育てられたと言っても過言ではありません。
もし、もう1つ勉強が許されたなら
ですからもう、両親には感謝しかないのだけれど、もしももう一つ勉強することが許されたなら、私は小さい頃から英語に触れる環境が欲しかったと思うのです。英語で話したり文献を読んだり(翻訳でなく)できたら、さらに多くの価値観や考え方にも早くから出逢えたのではと。
(実は、バレエも習わせて欲しかった! ですが、これは19歳からクラシックバレエを、直後にジャズダンスも始めて、アルビンエイリー舞踊団のメンバーのワークショップを受けたりと、28歳でやめるまでにリベンジできました)
アメリカにいる母の親友が「お嬢さんがジュリアードに行くなら預かってあげる」と言ってくださっていたことを知ったのは、私が武蔵野音大を出たあとだったのでちょっとショックではありました。高校時代の私の選択肢に「留学」はなかったので仕方ないことですが、もし、私が熱心に英語を勉強していて不自由なく会話できていれば話は違ったかもしれません。
音大卒業後に自力でバークリーに留学しようと思った時期もありました。それは、高校時代にあるオーディションで優勝して自作のレコーディングをしたときに、ああ、音楽家の共通語であるジャズ理論を本格的に学ばないと、作品の意図を演奏する人に的確な言葉で伝えられない……と思ったからです。私が尊敬する世界を行き来している作編曲演奏家の方達は、当たり前のようにクラシックもジャズ理論も勉強していて、ノンジャンルの強さを感じました。
私は、語学を頑張る代わりに、日本でジャズ理論を学ぶ選択をして、音大卒業後八城一夫先生の門を叩きました。この後の6年間の勉強がなければ、今の私はいないと思います。
外山和彦氏の、バークリー経験談
ミュージックデータの編曲者外山和彦氏は、ICU卒業(英語での勉強に慣れている)、音楽出版社等で仕事をした後バークリーへ留学、上位3%の特別待遇のクラスに入り4年間勉強後、首席で卒業されています。英語が堪能で、ずば抜けた音楽の力があってのことです。帰国された外山さんから「バークリーでは英語でのコミュニケーション能力が低いと日本語の“お客さんクラス”が用意されていて、語学力や成績によって授業の中身が全く異なる」と聞いて、片言で留学しなくてよかった、日本でジャズ理論を学べてよかったと心から思いました。
そのとき、もし自分に子供ができたなら、日本語と同じくらいに英語が話せるようになる環境を作り、どんな夢や仕事の実現にも言葉でハンディを感じないように育てたい、と心から思ったのでした。
外山さんは、ICUで夫の後輩だった縁で私たちの結婚パーティーの司会をしてくれました。そして、アメリカから帰国後すぐに、ピアノランドのミュージックデータと歌のCD「ギリシャ神話のように」の編曲を手がけてくれました。
息子たちには、英語が不自由なく使えるように
そうして母になった私は、息子たちの保育園時代からずっと、週に一度家庭教師を派遣してくれる教室を選び(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、いろんな国の先生)、英語でのコミュニケーション能力を育めるよう心がけました。彼らが大人になったときに、臆せず世界を飛び回れるよう、好きなことが勉強できるようにと願って。
肌の色、髪の色、目の色が異なる男女様々なキャラクターの先生と通算15年くらい毎週共に時間を過ごした環境は、人間形成においてもプラスになったかなと。幼児の英語教室や受験英語の勉強とはまた違う意味を持ったようです。
環境ときっかけを作ったのが功を奏したのか、いつの間にか彼ら自身が英語が好きになり、興味をもって勉強していました。小中高大学時代を通じて、英語や科学やPCに関することは夫に、音楽や人生については私によく話をしていました。
今では長男は海外生活5年目のビジネスマンとして飛び回り、次男はニューヨークにコンサートやミュージカルを勉強に出かけたり。言葉の壁がないということは、心理的な壁も当然低いわけで、前向きで活動範囲が広い彼らに、私の方が刺激されています。また、語学だけの問題を超えて、国によって文化、習慣、常識が全く異なることを自然に受け止めて、人としてのキャパシティが広くなるのはいいことだなぁと感じます。
ピアノランドで作る、もう1つの環境
「えいごでピアノランド」
そのような理由で、私は「環境としての英語」のために、ピアノランドの歌詞を英訳したい!と出版当時から考えていました。毎日ピアノを弾くときに、英語でもこの歌詞が歌えたらどんなにいいだろうと。
ですが、メロディと曲の世界観と合うように翻訳できる人を探すのは並大抵のことではありません。例えば、岩谷時子さんのちょうど反対の役割ができる人を探す……と言えば、その困難さがお判りいただけると思います。
よい出逢いがなく長いこと諦めていたピアノランドの英訳でしたが、ピアノランドメイト会員の方の紹介で、NHKの「えいごであそぼ」に出演していたクリステル・チアリさんから『ピアノランド』や『プレ・ピアノランド』を英訳したいとのアプローチがあったのです。お父様はギタリストのクロード・チアリさん! その出逢いのおかげで私の夢が叶い、とうとうこの春に、英語(と日本語)でピアノランドを歌う、夢のようなDVDが音楽之友社から発売されることになりました!
DVDの収録二日目の撮影が終わったところでパチリ。
左はクリステル・チアリさん、後ろは、この出逢いを作ってくれたピアノの先生長安直子さん。
ピアノランドを英語で歌うDVD!
息子たちにはピアノやバイオリンのレッスンの他に、毎週英語の家庭教師に来てもらっていました(教育費だけは頑張りました!)が、あの頃よりもずっと不景気な今、子供のためにネイティブの家庭教師を定期的に頼むのは若い保護者にとって大変なことではと思います。
ピアノランドの英語のDVDがあったら、もっと手軽に身近に、ピアノを習っている副産物として英語に親しむことができます。お月謝と変わらないくらいの値段で購入できるDVDを、毎日見ながら一緒に歌っていたとしたら、素晴らしい結果が待っているに違いありません。
だって、私が惚れ込んだ美しく歌いやすいピアノランドの世界にぴったりの英訳です。そして、歌手としての表現力も魅力も満載のクリステルさんに、日本語と英語で歌っていただきます。しかもピアノはベヒシュタインで、孝之介と私が連弾します。すでにリハーサルは順調に進んでいます!(昨年末に撮影を終えて、2020年3月12日現在、編集の最終段階にさしかかっています)
英語はChristelleさんに任せて、
ピアノの先生は、ピアノを教えて🎵
あ、「英語でピアノランドを教えるなんて無理~」と思った方、その心配は無用です。このDVDでお薦めしているのは、「英語で歌う」ことであって、「英語でピアノを教える」ことでは、全くありません(得意な方はもちろんどうぞ、止めません 笑)。
まず、母国語である日本語でピアノランドを美しく楽しく歌うのがいちばん最初にすべきことです。歌心を育てるために、日本語のイントネーションとメロディの関係を大切にした歌詞を書いていることは何度もご説明してきました。フレーズや音型の個々の音の表情付け、“アーティキュレーション”の表現を豊かにするためにも、日本語でしっかりと声に出して歌うことが大切です。(稀に、ピアノランドの歌詞を一度も歌わないまま5巻まで弾いたという音大生に会ったことがありますが、それはとても残念なことです……)
もちろん、日本語の歌はDVDがなくても歌えるはずですが、実はDVDが出版されることによって、日本語の歌も何回も聴いて、歌う機会が増えることで、これまでよりもイメージ豊かな表現に繋がっていくことが期待できます。また、子どもたちには、レッスンする曲を自宅で何度もDVDを見てきてもらい(毎回レッスン中にその時間はとれませんね)、クリステルさんの発音を手本に、何度も歌ってくることを宿題にしましょう。英語の発音は、DVDのクリステルさんに全面的に任せてください。耳のいい子どもたちは、そっくりそのまま真似をしますから、真似して歌えるようになってから、レッスンで一緒に弾き歌いをすればいいのです。
あぁ、先生と連弾しながら、ミュージックデータをバックに、日本語でも英語でも歌える子供達が育つのです♡嬉しい♡
「案ずるより産むが易し」といいますが、どうぞ、このDVDを、子どもたちの新しい環境の一つに加えていただければ幸いです。
生徒さんのお宅には「一家に1枚」、環境としての「えいごでピアノランド」をご用意していただけますよう、よろしくお願いいたします。これから、ピアノランドにとって、とても大切なコンテンツとなっていくことは間違いありません。どうぞ、発売を楽しみにお待ちくださいませ。
これは、全ての撮影が終わった冬の帰り道、東京タワーが笑ってくれているみたいでした!
大変だったことも、どんどん楽しい思い出に変わっていきます。
使い方は、5/19のセミナーでじっくり
生演奏でも、お聴きください♡
そうです、毎レッスン“聴きとり術”を初めに1、2分やってコードの響きに身を委ね、集中力を高め、それからピアノのレッスンへ。その中で、ピアノランドは、必ず日本語&英語でも歌い、どちらの言葉でも心と耳と指にフィットするように練習をしていきましょう。発売にあたっては、さらに詳しく使い方の説明をいたしますので、5/19(火)発売記念セミナー(カワイ表参道)においでください。クリステル・チアリさん、樹原孝之介も一緒に、DVD「えいごでピアノランド」の効果的な使い方をお伝えします。
(あ、それで、いろんな曲をレッスンした後には、『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』を、毎回1ページずつワークブックのように宿題にしていきましょう!)
壮大な夢も、一つずつ順番に
どのテキストにも、止むに止まれず作った理由があって、その一つ一つを形にするのには何年もかかりました。そのテキスト同士が相乗効果を生むのを見ることができて、このところとてもやり甲斐を感じています。今回のDVDは、『ピアノランド』に歌詞があり、連弾で、素敵なイラストがあって、ミュージックデータもあり、たのしいテクニックシリーズや“二段階導入法”という考え方があったからこそできたものなのだと、撮影を終えた今、充実感でいっぱいです。
私が情熱を込めて作った歌詞を、クリステル・チアリさんが、これまた情熱を込めて翻訳してくれたのは本当に嬉しいことです。何と言っても、言葉のセンスは大事です。シラブルのフィット感が素晴らしいのです。
そして、英語の家庭教師代を惜しむことなく(笑)育てた孝之介が、訳詞の相談役になれたことも嬉しい。
教育は、いつか必ず助けとなりますね。
受けた本人の人生を助けるのはもちろんですが、周りをも巻き込んで変えていくものではないかと思います。
今回、私はまっさらな気持ちで、「えいごでピアノランド」の歌から、もう一度英語を学びたいと思っています。全国の子供達と一緒に、一から楽しもう!とワクワクしています。
こうして、何十年がかりかで『ピアノランド①②③④⑤』を中心に据えて、私の遠大な夢&計画が1つずつ実現に向かっています。『たのしいテクニック上中下』『ピアノランドコンサート上中下』『プレ・ピアノランド①②③』『耳を開く 聴きとり術 コード編』『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』DVD「えいごでピアノランド」他、沢山のピアノ曲集……。どれもが、有機的に繋がっているので、他の作品を演奏しながらも「ああ!」と思っていただけたら嬉しいなぁ。
それではまた、音楽之友社から公開できる情報をいただいたら、順次お知らせしていきます。
応援よろしくお願いします。頑張ります。
🔶今後の樹原涼子のスケジュール🔶
2020年 4月 2日(木)
マスタークラス 第14回 コード分析で機能を理解するために必要なこと ダイジェスト
2020年 4月 29日(水)
『即興演奏 12のとびら 〜音楽をつくってみよう〜』
樹原涼子 新刊発売記念セミナー ピアノプラザ群馬高崎本店(群馬県高崎市)
2020年 5月 7日(木)
マスタークラス 第15回 ペダルの技術を磨こう