センスがよいということは、違いがわかるということ 母校での講演を振り返って
今回、一番初めに申し上げたのは、「センス」「聴く力」「知識」の3つのキーワードです。
音感教育において、これ以上大切なものはないと、私は考えています。
講演の中から、その部分を少しだけかいつまんで日記に記しておこうと思います。
スペースの都合で、“聴きとり術”についてのみ触れます。
「センス」をよくするにはいったいどうしたら? と多くの方が思われるでしょうが、私はこのように考えています。
センスがよいということは、違いがわかるということ
音楽においては、「聴く力」が「センス」を左右します。
ハーモニーのちょっとしたニュアンスの違いを聴きとり、弾きわけることができるのは、「聴く力」あってのこと。
何が、どれくらい、どう違うのかをしっかりと聴きわけ、なおかつそれらを、感覚だけではなく、言葉でも他の人に説明できることが重要で、そのためには違いを表す言葉や概念である「知識」が必要です。
具体的にいえば、コードの響きと名前が一致している(実際のものとその名前の関係性が明確である)とか、響きが変化していく様子をコードネームでも表現できてそれを誰かと共有できる(例えば、日が落ちて空の色が変わる様子を、色の名前を知っていれば他の人と共有することができる)等、固有名詞の「知識」の有無、質、量が重要になってくるのです。
違いがわかる「センス」を育てるためには、“聴きとり術”で「聴く力」をつけて、コードの響きと名前を同時に認識できるように「知識」として蓄えていくことが大切です。その知識が増えていくたびに、持っている絵の具が増えるかのような喜びを感じられたらどんなの素敵でしょう!
この講演では、その重要性を多くの先生方にお伝えすることができたと思います。
試すのではなく、聴く、感じる、知ることの喜びを増やしていく
“聴きとり術”がいわゆる聴音と異なるのは、演奏する前に「これからCmajor7を弾きます」と先にコードの名前を教えてから演奏することです。弾いた後で答えさせるのが目的ではなく、名前と響きを一致させるために、安心して「聴く」という行為を心ゆくまで味わってもらうのです。それは聴く人に限ったことではなく、演奏する側の先生も同じです。自分自身がその響きになりきるくらいのつもりで演奏してください。
音を五線に書かせるということもしません。響きと名前を覚えていくことが目的です。
誰でも、“聴きとり術”を経験して楽しむことができます。
和音のポジションはピアノという楽器で一番和音が美しく響く掴み方で開離の位置(オープン)、広い音域に渡ってペダルを使い倍音を沢山含んだ音色で聴かせます。
密集の「ドミソ」が「C」なのではなく、「C」の響きの一部が「ドミソ」なのです。
このように育てていくと、楽曲の中で使われる様々な形のコードが聴こえる耳になっていきます。
実際の曲で基本形のコードだけを使うということはほとんどありませんから、コードブックを見て「Cはドミソ」だと覚えても、聴くときには役に立たないことが多いのです。
“聴きとり術”は『ムジカノーヴァ』に5年間連載して読者や子供達の反応を見てから本に仕上げたので、レッスン室での使い勝手のよいわかりやすい本になったと思います。子供達がコードの響きがわかるようになった、敏感になったと多くの声をいただいています。幼稚園やピアノ教室の目玉として“聴きとり術”を取り入れているところも増えてきました。
でも、一番嬉しいのは、教えている先生の音が美しくなって、先生自身の耳が開き、センスがよくなっていると報告をいただいくことです。全てはそこから始まります。
“聴きとり術”ってどんな風に行うの? どうやって教え方をマスターすればいいの? という方は、こちらをご覧ください。
『耳を開く 聴きとり術 コード編』12のコード編より「Cを聴きましょう!」
この講演では、諸先生方に“聴きとり術”の発想そのものをお褒め頂き、とても光栄でした。レセプションでも具体的な言葉を沢山いただき、大いに励まされました。
“聴きとり術”を最初に受けてくれたピアノランドスクールの子供達、協力してくれた講師陣、連載を担当してくれた荒井さん、当時の岡地編集長、編集の山本さん、亀田さん、そして第一線で広めてくれている勉強会講師陣と受講してくださっている先生方、本当にありがとうございます。おかげさまで版を重ね、多くの皆さんのご協力により“聴きとり術”が日本に根付き始めたことを心から感謝申し上げます。今後さらに精進して研究を進めていきたいと思います。