マスターコース13期 卒業に寄せて 豊永泰子

ピアノランドマスターコース13期の卒業生のレポートです。
ピアノランドメイトに掲載したものを転載いたします。

マスターコース13期 卒業に寄せて

 
                          

豊永泰子

【受講前】
 私がマスターコース13期として第一回目の講義を受けたのは2012年12月13日でした。
先にマスターコースを卒業した友人からじわじわとピアノランドを勧められており、その洗脳が飽和状態になったある日、とにかく今すぐに行ける勉強会に参加してみようと思いたってまず受講したのが「プレ・ピアノランド勉強会」。このクラスで、ピアノランドメソッドがいかに科学的かつ合理的に考えられているかという端緒に触れ、もっと知りたい!もっと学びたい!と言う猛烈な衝動にかられ、ハッと気がついたらマスターコースに申し込んでいました。
 ピアノランドはメイトの皆さんご承知の通り、聴く・歌う・動く・見るという、ピアノを弾くための準備期間である第一段階を経て、実際にピアノを弾くという第二段階に進みます。
しかしこの第一段階にある
「聴く」…つまり、まず先生が美しい音色を生徒に聴かせてあげないとね!
「歌う」…やはり、まず先生が心ある歌いかたで歌いたいわよね!
「動く」…先生のお手本が(以下略)
「見る」…先生の読譜力(以下略)
ということで、「先生」である私達がこってりたっぷり笑顔で絞られる2年間の幕が開けたのでした。

【受講1年目】
 勢い込んで受講し始めたは良いけれど、早速手の形でつまずきます。
 山?え?峰が崩れてる?5の指を立てる?へ?物理的にそんなこと有り得るの?
 鍵盤に接する指先のタッチポイントにエネルギーを伝えなければならないのに、その途中をどうして良いのかわかりません。白状してしまえばそれ以前の、脱力がすでに怪しいのです。少し前かがみになり、両腕をだらんと下げて地球の重力に任せるということができないのです。自分の身体なのになんて不自由なのでしょう!
 しかし、この脱力や手の形の作り方は、毎朝少人数のグループに分けられ、樹原先生が個別に丁寧なアドバイスをくださいます。メソッドの学習を進めるのと並行して「一音を大切に」と3の指一本で毎日ひたすら鍵盤と向かい合う。そして忘れもしない10月17日。ポーンと暖かくも芯のある美しい音が私の指先から引き(弾き)出されたではありませんか!
 一年近くたって、やっと納得のいく音が出た!もうダメかと思ったのに…と思う間もなく涙が溢れました。この日から私は、できないことを数えるのをやめました。

【マスターコース2年目】
 さて、リズム練習・コードについて・プレピ、テクニック、ピアノランド1巻2巻、コンサートと進んで行き、私自身も当社比前年同月比と比べますと日々進化しているつもりでしたが、それを客観的に知る日がやってきます。
 もう20年以上も付き合いのある友人先生達と毎年開いている合同発表会。その年の発表会には、最初からピアノランドで育てた生徒と、途中から徐々に組み込んだ生徒が出演しました。発表会終了後、友人先生に「あなたの生徒さんは、とても音楽が行き届いているわね」と感想をいただきました。音楽の表現が立体的で最後まで自分の出した音に耳を澄ます様子が、聴く人の心に残ったのです。
 また、樹原先生やその他邦人作品を採り入れた選曲も、よくある名曲一辺倒で終わらない面白さがあり、新鮮な気持ちになったとのことでした。私が進歩したことにより、私が考えるよりもっと大きく生徒達が成長していたのです。

【マスターコース卒業前夜に思うこと】
 前述の理想の一音が出る前、先生は私の指をつまんで揺さぶって少し押しつける動作をしました。ほんの十数秒のことです。またある曲の運指で困っている時、ここは自然に指が下りるこの指で…と、私が音大時代に沁みついた動きを覆し、もっと楽に弾ける運指を教えてくださいました。何も知らない人が見たら魔法かと思うかもしれません。しかし前者は楽器の構造と私の手の筋力・骨格を見抜かなければできないことであり、後者はその音楽が何を表現されたがっているか、そしてそれにひとりひとり違う形の手をどのように載せていくかという見極めをしなければなりません。それは先生自身の長年に渡る膨大な研究と実践の結果、たくさんの引き出しから必要な時に必要なものが引き出されるというわけです。
 この場合にはこれ、間違ったら減点です、という教育では音楽は解決できないほど広くて深くて高いもの。音楽の美しさを感じ取り、それを表現するために、何通りもの可能性を考えることができる人を育てるのがピアノランドメソッドです。
 また、圧倒的に豊かに響くフォルテや繊細なのにホールの隅にまで届くピアニッシモ。ピアノランドメソッドでそれらの音を出す技術を獲得できますが、それが何のために使われるのか?マスターコースで習うことは、メソッドの使い方に留まりません。たくさんの本を読むこと。良いコンサートを聴きに行くこと。音楽と、それを取り巻く世界情勢を知ること。ピアノ以外の楽器を知ることや、ピアノメーカーごとの個性を知ること。自分の住む地域以外の文化や立場を知ること。人々の違う考え方を知り、それを尊重すること。言わば全人格的な成長に必要なことを、折りに触れて樹原先生は話してくださいます。2年間のはずが、どうも5~6年ほど学んだような気がするマスターコース。卒業とは一つの区切りに過ぎず、まだまだこれから長いピアノ道を歩いて行きます。ピアノランドメソッドとは、その長い道のりを歩くための地図であり、マスターコースは地図の読み解き方を学ぶ場なのだと思います。

【卒業式とその後】
卒業式の日は雨の予報でしたが、幸いにも少し降った後は晴れて暖かくなりました。
いつもより早めに集合した仲間達は思い思いの正装姿です。この正装は先生への感謝の気持ちと、頑張った自分への労いです。最近はあまり晴と褻の区別をつけないようになりましたが、感謝の気持ちを持つと自然に晴れ着を選びたくなるものですね。
コンサートでは1人4分の持ち時間の中で、好きな曲や思い出深い曲を演奏します。全員で選曲の打ち合わせをしたわけではないのに、独奏・連弾・弾き語り・データと合奏等、ピアノランドメソッドで学んだことが満遍なく披露されました。そして先生のお言葉と卒業証書の授与。カメラのシャッターが切られる度に、お別れの時間が近づいて来ます。
「学ぶことは永遠に続けられるけれど、区切りをつけることも必要」とは先生のお言葉。人間、いつまでも時間があると思うといつしか無為に過ごしてしまいますので、寂しいけれどやはりここで一区切り。しばらく二年間の学びを振り返る時間を持った後、プレピ勉強会、コード塾、聴きとり術勉強会等、それぞれまた違う学びの場に羽ばたき、ピアノ道は続きます。
マスターコースを修了した仲間の心の中に、樹原先生はたくさんの音楽と人間成長の種をまきました。すぐに芽が出る種、暫く眠って数年後に芽吹く種、意外な咲き方をする種や知らないうちに実っている種もあるかもしれません。先生に良い種をまいていただいたので、今後は自分で畑の手入れを続けましょう。同窓会も準備されますので、どんどん進歩する仲間達と成長具合を確認し合うのも楽しみです。
最後に、これを聞いてしまったら学ぶことを終わらせるわけにはいかない!という勇気が湧く、樹原先生のお言葉を引いて、結びとさせていただきます。

「良い演奏ができた!と思った人は、さらに大きく高いところをめざしましょう」
「思うように演奏できなかった…という人は、それができるように磨きましょう」

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