マスタークラス(弾き語り)、コード塾(トロイメライ) をセルフレポート

マスタークラス(弾き語り)、コード塾(トロイメライ) をセルフレポート

コロナ禍から少しずつ立ち直り、出席者も増えた11月5日の樹原涼子のマスタークラスと、6日のコード塾の様子を、レポートしておこうと思います。なぜなら、両日とも私にとっても受講生の皆さんにとっても特別なセミナーとなったから。この二日間だけは忘れないようにしたいと思ったからです。毎月一生懸命準備して開催していますが、伝わった感触はその時により違います。今回の手応えはどちらのクラスもちょっと特別で、佳境に入ってきたなぁという感じがしています。

 

マスタークラス 11月のテーマは「弾き語り」

マスタークラスでは毎回異なる一つのテーマに沿って掘り下げていきますが、今回は初めて「弾き語り」について取り上げました。

メインの『The Four Seasons ベスト・セレクション』の曲に行く前に皆さんに「ピアノランド」で解説したことをかいつまんでみます。

 

 

「ピアノランド」は「先生と一緒に歌って弾ける」と表紙にあるくらいで、幼児から弾き語りでピアノを学んでいくテキストです。なぜ弾き語りがよいかといえば、「歌うように」演奏すれば、フレーズの形もブレスも、音楽の意味も、幼児がダイレクトに理解できるから。どんな曲で、どんな風に演奏すればいいかを、タイトルや歌が教えてくれます。

初心者にとっては、演奏するだけ、歌うだけでも簡単ではありません。それを合体させて弾き語りができるようになれば、脳のシナプスがより連携を強めるので、ピアノだけ、歌だけを単独で行うのはとても簡単に感じるようになっていきます。つまり、余裕ができるということ。

 

一人の脳みその中で歌とピアノのアンサンブルができる、一人二役できるということは、一人分になれば当然そのクオリティは上がり、弾き語りのクオリティもさらに上がっていく。連弾で伴奏パートも付いている上に、ミュージックデータを再生すればオーケストラとの共演となり、さらに「聴きながら弾く力」がアップする、というわけです。

それで、私は、自分の脳みそに負荷をかけることにしました。この練習方法を提案することで、ピアノの先生方の力が確実にアップする上に、レッスンでも大いに役立つ、ということをみつけたからです。

 

 

 

 それは、歌を歌いながら、伴奏パートを弾くことです。

ピアノランドの伴奏パートは、ポリフォニー的な要素が多く、オブリガートや効果音的扱いの音も多いので、それを演奏しながらメインのメロディを歌うのは結構難しいのです。(バッハのインベンションを片パートを歌い、片パートを弾く、という練習と同じような感じです)

ですが、先生方なら日本語で歌いながら伴奏するのはすぐにできるようになるでしょう。すでに慣れている方も多いことでしょう。

 そこで、「英語で歌いながら、伴奏パートのみを弾く」をするのです!

これは、私にとってとても難しいことでした。日本語では簡単にできたのに、英語で歌いながら弾くとなると急に、数段難しく感じるのです。これは、子供たちが日本語で弾き語りに挑戦する段階と非常に似ています。やっと弾けるようになったのに、歌いながら弾く……それには、歌詞と手の両方に気を配らなくてはならないのですから。

この春出版した、クリステル・チアリさんの翻訳によるDVD「えいごでピアノランド」の歌詞は、日本語の歌詞の情景や心を余すところなく英語でも再現していて、しかもとても歌いやすくできていますので、子どもたちに歌えるようになってほしい!と願っています。

 

 

そんなわけで、『ピアノランド②』から「みかんころころ」「バイバイバイ」「おいしいきのこさん」の3曲を、〈生徒パートではなく伴奏パートを演奏しながら英語で歌う〉に私自身が挑戦するところをみなさんに見ていただきました。皆さんも、膝の上でエアー伴奏しながらそっと英語の歌にチャレンジ。難しかったそうです!

 

これを前置きとして、いよいよ本題。『The Four Seasons ベスト・セレクション』「祈り」「クリスマスには」「君は君のままで」の3曲の弾き語りをするにあたってのアドバイスをじっくりと歌いながら講義していきました。

久々の弾き語り、喋っては歌うので喉もびっくりですが、ここは頑張りどころです。

その後、弾き語りで特に注意すべきマイクのセッティングについて、マイクを使うコツ(マイクをけして叩かないでね!他)、モニターの使い方、本番前にすべきことなど、(それだけでレジメ2ページにも!)を熱く語り終了。

 

 

会場のカワイ表参道では、弾き語り用に最高のセッティングをしていただき、本当にありがとうございました!
モニターの返し、ピアノと歌の音量バランス、さりげないリバーブ等々、素晴らしい環境で勉強できてとても助かりました。

 

 

弾き語りの公開レッスン

 

午後は、「祈り」と「君は君のままで」の公開レッスン、大いに盛り上がりました。いつの間に、ピアノの先生方はこんなに弾き語りが上手になったのでしょう? 心のこもった歌と演奏に大きな拍手が贈られました。

レッスン中は、ホールの後ろの席から響き全体を聴きながらアドバイス。
私にとっても貴重な体験でした。

 

「祈り」を演奏した伊藤美紀子さん。(写真はご本人より)

 

「君は君のままで」を演奏した藤井明美さん。(写真はご本人より)

 

 

コード塾 「トロイメライ」1曲を掘り下げる

そして、翌日のコード塾は恵比寿のスタジオで。

これまで、和声の骨格がはっきりした古典派の音楽の分析をしてきたので、ロマン派のコード&機能分析に差し掛かってきたところです。今回は、シューマンの「トロイメライ」スペシャル。コード&機能分析シートを作って和声の骨格と細かい動きをそれぞれに見ていくのがコード塾の手法です。

本当は、前半に分析をしたら、後半は別の予定だったのですが、ここまで細かく分析したら、その勢いで「トロイメライ」をテーマにアゴーギクのしくみを講義したいという気持ちになってしまいました。丁度、『ムジカノーヴァ12月号』のテーマが「テンポを制するものは音楽を制す」というタイトルでアゴーギクについて書いたばかりだったこともあります。

そんなわけで、後半は「トロイメライ」をテーマに、音楽における時間の魔法である”アゴーギク”についてたっぷりと時間をかけました。

みなさんに伺ってみたら、音楽の時間の伸び縮みのテクニック「アアゴーギク」は苦手、rubatoに自信がない……という人がほとんど。音大でも習った記憶がないそうです。これは、おそらく曲の中で「そこはもっと興奮して」「そこはもっとゆったりと」と先生方は具体的に指導されてきたのかもしれませんが、学生の側ではそれに反応して演奏は変化しても、「なぜそうするのか」という根本的な理由がわかっていない、という原因が考えられます。だから、自分では他の曲に応用できない、自信が持てない、rubatoをうまく教えられない、ということになるのでしょう。

 

rubatoは元々、「時間を盗む」という意味です。どこかから盗んだ時間はどこかで返さなくてはなりません。でも、その可能性は無限で、そのさじ加減はとてもデリケートです。同じ曲でもピアニストによって全く違う、同じ人でも時によって違う、その日その時のピアノやホールや聴く人によっても変わっていくものです。それでも、その時々に応じて自分なりの最適なテンポコントロールができたらいいですよね。

そうなるために考えるべき事柄について、じっくりと時間をかけて伝えられてホッとしています。みなさん、それぞれに実践してどういう変化があったか、次回が楽しみでたまりません。

 

みんなが帰った後も、ちょっとだけ余韻を楽しんで……。

 

 

会場のスタインウェイは、ちょっと昔の香りを漂わせて「トロイメライ」にぴったり。終わる頃にはみなさん、倍音もすっかり聴こえるようになって、深く味わえたようでよかった~。

「トロイメライ」は本当に本当に美しい曲ですね。私は家に帰ってからもテンションが上がりっぱなしで、とうとう「子供の情景」1冊、書斎で無観客コンサートでクールダウン。

 

音楽の魅力に捕まりっぱなしの人生ですが、喜んでいただけたので本当に幸せな気持ちで週末を迎えています。

 

 

 

○マスタークラスの詳細はこちら
過去講義もDVDで勉強できます。

来年の1、2、3月のテーマと日程は、12月になってから発表します。
(12月はお休みです)

 

○コード塾の詳細はこちら
今回(第8期)で終了するので、DVDでの追っかけ受講の方が増加中です。

12月は4日に今回の続きを行い、1月はお休みです。

 

樹原涼子
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