モードは過去から現代をつないでいるロープだと思う

モードは過去から現代をつないでいるロープだと思う

先日、モード(教会旋法)について書いたところ、沢山の反応をいただきました。

先日の日記を読んで、自分の迷いの元がわかりました! 紀元前のモード、中世のモード、現代のモード、全く同じではないこと、そして、どれもモードなのですね」

はい、昔の名前で呼ばれていても、現代では違う使われ方をしています。そのことについては、後述します。

「勉強したくても、どこからどう手をつけたらいいのかわからなかったので、『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』を見て感動しています。10月10日のセミナー楽しみです」

ありがとうございます! そのためにずっとコツコツと出版をつづけています。『時の旅』の曲を聴いて、スケールとモードの違いがよくわかっていただけると思います。理論と音楽を結びつけていくためのセミナーです。

「モードについては何となく気になっていて、でも、なぜ必要かわかりませんでした。学んだ方がよさそうだと思いました」

わかります! 必要性を感じなければ学ぶ意欲も湧きませんね。先日の続きを書きますので、もっとモードに興味を持っていただけたら嬉しいです。でも、モードを使った名曲は世の中に沢山あって、すでにご存知の曲も多いと思います。10月10日にはとてもわかりやすい曲を演奏いたします。音楽への感動が、一番の原動力ではないかと思います。モードの美しさを感じられるように、まず、見分ける、聴き分けるができると、弾き分ける、ができるようになります。

 

ああ、よかった! やはり、少しでも概略を知っていただければ、モードの勉強のとっかかりとなるのですね。日記を書いてよかったです。今日は、さらにその補足、続きを書こうと思います。

 

 

「モードは過去から現代をつないでいるロープだと思う」樹原涼子

キリスト誕生以前(紀元前)のモードは、古代ギリシャの哲学の範疇の中で語られています。哲学書にある、モードによって民をコントロールする、という発想に触れたときの衝撃はわすれられません。先日の日記を読んだ編集者が、「旋法で人の心を動かすことができると古来から考えられているのですね、なんかうれしいですね」と。確かに!ですが、芸術は、人心掌握のために、古来から利用されてもきたわけで、嬉しさとともに、ちょっぴり恐ろしさも感じます。

 

担当の山本美由紀さんと、ピアノランドフェスティバルで。

 

また、時代を経て、中世のグレゴリア聖歌はキリスト教のカトリック布教のためのミサで歌われたもので、ドリア、フリギア、リディア、ミクソリディアの各モードが用いられました。古代ギリシャの頃とはすでに異なる使われ方で、ネウマ譜が残っています。

 

現代では、哲学や宗教から離れて、音楽家たちがモードを再発見して使っている時代だと言ってよいのではないでしょうか。
ジャズでは、アドリブのしやすさからモードが重宝されました。マイルス・デイビスは調性によるコード進行が中心だったビ・バップから、モードの響きを利用したモーダル・ジャズへと、新たなサウンドを獲得して変革をもたらしました。同じ「モード」の音列が、古代とも中世とも違う発想、リズムの中で別の命を持ったと言えるでしょう。

 

また、クラシック系の現代音楽の作曲家達は調性からの縛りを逃れて、モードの響きを独自に、効果的に使うようになりました。1曲丸ごとがモードということもありますが、モードを素材の一部として捉え、曲のどこかを印象的にするために用いることもあり、作曲家それぞれが自分の音楽の中でモードの輝かせ方を見つけて個性としています。

私も、そのようなスタンスでモードを扱ってきたので、「ピアノランド」シリーズの中にも、樹原涼子ピアノ曲集の中にも、自然とモードが使われていて、みなさんが樹原涼子の個性と感じられるものの一部はモードでできていると思います。

これは、『時の旅』の中の組曲「小さな時間旅行」の挿絵。3曲めの「リディアンドール」と4曲めのクマの「ミクソリディアン」を本間ちひろさんが描いてくれました。ぜひ、連弾してみてくださいね!
音楽之友社のサイトでは、チラッと立ち読みができます。

 

 

バーンスタインが「青少年のコンサート」の中で行った「What is a Mode?」という番組の中では、近現代のオーケストラ作品の中に、どのように、どのモードが潜り込んでいるのかを、とてもわかりやすくユーモラスに伝えています。ドビュッシーの「沈める寺」やビートルズの「ノルウェーの森」がモードの説明に並列に出てくるところなど、さすがバーンスタイン!(YouTubeはこちら

 

長い歴史の中で息づいている音楽を、俯瞰して見る

作曲家達は、いかに作品に命を吹き込んできたのでしょうか?

その手法の研究、開発において、調性音楽が果たした役割の再確認は欠かせません。

また、調性以外にはどのようなものがあるのでしょうか?

その中のホープとして、「モード」が過去から現代をつなぐロープのような役割をしている、ということも、少し感じていただけたでしょうか?

 

この、過去からの贈り物「モード」を、バーンスタインがオーケストラで解説したように、私はピアノで解説する、ということをコード塾やマスターコースで実践してきました。今回は、一般のセミナーで、しかも、新刊連弾組曲集『時の旅』発売記念の一貫として、子供にもわかる方法で、さり気なく(の割には、何度も強調していますが 笑)行いたいと思っていますので、みなさん、怖がらずに遊びに行くつもりでおいでくださいね!

先日、ピアニストの上杉春雄氏がバッハのインベンションの講座を開かれた折に勉強させていただきましたが、そのときに拙著『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』に興味を持たれ、帰宅後購入してくださったそうで、モードやディミニッシュトコードについて長文の感想をお送りいただきました。私の研究や著作が、尊敬するピアニスト&研究者でもある上杉さんのお役に立って、とても嬉しく光栄に思います。ドビュッシーの「映像」の分析に使ってみてくださるそうで、私もワクワクしてきました。

 

10月10日のセミナーでは、この本を『時の旅』の分析に用い、レッスンでの取り入れ方についてご紹介する予定です。

モードの話をしていると、少し前まではとてもオタクな、ごく一部にしか通じないことのような気がしていましたが、スケールやモードについて語りつづけてきた成果がいよいよ表れ、バーンスタインや上杉春雄さんを味方にして、今ではレッスンに欠かせないことを伝えている感じがしてきました!

騙されたと思って、モードの美しさに、一度触れてみていただければ幸いです。

モードは過去から現代をつないでいるロープですから、あなたを、色んな時代の音楽に運んでくれることと思います。ようこそ、モードの世界へ!

 

2018年 10月 10日(水)10:30~12:45 カワイ表参道

連弾組曲は、音楽の喜びそのものだNEW

樹原涼子 新刊 連弾組曲集『時の旅』発売記念セミナー

お申し込み
ピアノランドメイト事務局 03-5742-7542   info1@pianoland.co.jp
カワイ表参道 03-3409-2511

 

表紙は、遠藤湖舟さんの写真「ゆらぎ」を使わせていただきました。
考えてみると、モードこそが時を超えて旅してきたのだなぁと思います。

 

樹原涼子
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