父と母に捧げる思い 8月3日のピアノランドフェスティバル東京公演

父と母に捧げる思い 8月3日のピアノランドフェスティバル東京公演

今年は、東京熊本の2ヶ所でピアノランドフェスティバルを開催します。
熊本は地震で昨年開催できなかったこともあり、復興支援として大きく新聞や放送でも取り上げていただき、沢山のゲストが出演してくださるおかげで、とても賑やかなコンサートとなりそうです。

その陰に隠れてしまいがちな、東京公演について、本日、熱く語りたいと思いますのでお付き合いくださいませ。

 

ピアノランドの曲を中心に、子供たちが心から楽しめるコンサートを! と、18年前に東京でスタートしたピアノランドフェスティバルですが、今年でvol.18、全国公演もするようになり、これまでに東京、大阪、西宮、名古屋、熊本、福岡、札幌、仙台、富山、倉敷、日田などで、のべ61公演を開催してきました。この公演全てを、私が企画、ピアノランドメイトで主催、小原孝さんをメインゲストに、音楽之友社のお力添えをいただいて続けて参りました。

 

一年も欠かすことなく続けることができたのは、ピアノランドを使ってピアノを指導されている先生方が全面的に協力してくださったこと、楽器店や多くの関係者の皆さまの多大なるご協力をいただいたおかげです。そして、家族とピアノランドメイト事務局スタッフの献身的な協力あってのこと。

 

また、各地で待っていてくださるお客様あってのことですし、「これを聞かないと夏が終わらない」と言ってくださる方が沢山いらっしゃるおかげです。その期待に応えるべく、いつも、小原孝さんの素晴らしい演奏に助けられ、音楽的にもレベルの高い、「お子様向きとは思えない」と言われるコンサートを開催してきたことを誇りに思っています。

 

そんなピアノランドフェスティバルですが、今年の東京公演では、父と母への感謝をこめて、両親に捧げるコーナーを作りましたので、ぜひお聴きいただけたら嬉しいです。両親も年をとり、仕事のことだけを考えていればよかった時代がそろそろ終わり、両親との時間を大切にすべき時がやってきました。もちろん、私が音楽をして生きていくことを望んだ母でしたし、父はいつでも私の仕事を心から応援してくれています。いつも側にいることができない切なさをかかえながら、月に1、2回帰省しては慌ただしく東京に戻り、心引き裂かれるように過ごして来た数年間。医療現場の方々にも大変お世話になり、歳をとるとはどういうことなのか、まさに人生勉強をしているようです。

 

母がだんだんと記憶を失い、不安と戦いながら生きている様子を見て、そしてだんだんに弱っていくのになす術もない哀しさ。認知症という、ゆっくりと確実に進んでいくこの恐ろしい病気を、人類はいつ克服することができるのでしょう。もう、母が生きている間に治療できる見込みはないことはわかりましたが、このような寂しさや悲しさを周りの人が抱えていくことの大変さを思います。

今はもう、ただ、そこに居てくれるだけでいい。失うものを悲しむより、今幸せな気持ちでいてくれたらそれでいいと、そう思えるようになりました。けれど、初めはとてもショックで、記憶を失っていく母を思うだけで涙ぐんでいました。その頃に書いたのが、「Happy Life」という曲です。

きっと、私と同じように、大切な人が記憶を失くしていくことに戸惑いを覚え、傷ついている人は沢山いるに違いありません。
「できないことが増えてゆくばかりよ 歳をとるのは哀しいことなのよ」という母の言葉や、だからこそ「あなたの分まで覚えているから……」と歌わずにいられなかった気持ち。作品の中にこれらを投影していくことで、私は救われたのかもしれません。もう、病院から一歩も出られない母に、コンサートに来てもらうことはできませんが、8月3日、次男孝之介のコーラスも一緒に、母の心に届くように歌いたいと思います。

 

また、その母の病気が進行していく中、父は献身的に母の看病をしながら、再来年のNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」前半の主人公、金栗四三氏の伝記「走れ25万キロ」(熊日出版)を必死に書き上げていました。原稿を書く作業を何度も何度も中断せざるを得ない状況の中、仕事もやり遂げ、母にやさしく接する父の、母を見る眼のやさしさに感動して書いたピアノ曲「やさしいまなざし」

初めて父に捧げた曲、そして曲集となりましたが、この両親に育てられたことを誇りに思えるのは、なんと幸せなことでしょうか。その父も入退院を繰り返しており、車椅子で熊本公演を聴いてくれたらと祈るような気持ちでいます。

 

東京公演での私のコーナーの最後は、孝之介の作品「WILL」を二人で演奏します。ゲーム「俺の屍を越えてゆけ2」の主題歌となったこの曲は、無常ということを強く感じさせるもので、巡る季節の中で生きている「私」という存在の小ささと大きさを同時に感じさせる不思議な曲です。ピアノランドで育てて来た息子の、この早熟な芸術性には本当に驚きましたが、今では、一人の音楽家として一つ屋根の下に暮らしており、もう、母と息子というよりは同業者という感じです。

その彼が作った曲を、やはり、熊本にいる両親のために歌いたいと思うのです(これは東京、熊本で演奏します)。もちろん、お客様に聴いていただくために歌うのですが、「思い」というものが芸術作品を生み出し、表現の幅を広げていくとするなら、苦難さえもエネルギーにできるのだと思うこの頃。この親子共演も楽しみにしていただければ!

 

やはり、地震があったことも、父の健康を損なう一因になったと思います。熊本に暮らす人は、あの後も毎日余震を感じ続けているのですから、ストレスがないわけがありません。もっと被害の酷い地域の方、家を失くしたり、家族や職を失った人も沢山いらっしゃるわけで、そんな方に生の音楽を聴いていただけたらと、熊本特別公演を8月12日に開催することに決めたのでした。

ただ、そのことによって、今年の私の仕事は無茶という言葉を絵に描いたようなものとなり、東京公演のお知らせをあちこちに送る時間の余裕もなく、どんどん本番の日が迫ってきました。「無茶」の中には、熊本特別公演がとても大掛かりなものとなり、準備に時間を要していること、「録音応募プロジェクト」の審査講評に膨大な時間をかけ、公開レッスンを開催したことや、それが、ピアノ曲集『風 巡る』の作曲と校正作業とまるで重なる時期となったこと、さらに9月発売とは言え、新刊『もっとピアノが好きになる! 樹原涼子からあなたへ “贈る言葉” 300選』も出版準備が重なったこと、孝之介が作曲して12月に初演するオペラ制作進行の手伝い、そして両親のケアと……。

 

こちらは、秋に出版予定。ツイッターミニレッスンを新たにまとめ直したもので、藤本憲省さんのステキな装画に励まされながら、現在も制作途中です。

 

私のプロデューサーで人生の伴侶でもある夫は、起きている間中仕事をしていて「疲れた〜」と言う私に、「誰がやりたかったことなの?」と笑わせてくれるし、美味しい料理を作って支えてくれます。また、スタッフは「先生でなければできないことを除いて、私たちが頑張りますから」と、休む間も無く働いてくれています。楽譜や書籍の編集担当者は、私のスケジュールを睨みながら夜討ち朝駆け、お陰様で奇跡的に出版できる運びとなりました。

 

こうして、8月3日が迫って来たのですが、何よりも心強いことは、共演の小原孝さんの充実ぶりです。7月26日の東京文化会館のリサイタルを拝見して、改めて、「こんなピアニストどこにもいない!」と、大きな拍手を送りました。リサイタル後はいつも、「昨年よりもパワーアップしていてなんて素晴らしい!」と思うのですが、今年はさらに「深く広がりを持って」心に迫ってきました。プログラムの工夫の素晴らしさも群を抜いていて、小原さんが聴いてほしいこととお客様が聴きたいことの絶妙なバランスには脱帽です。

 

こんなに尊敬できる相棒を得て、毎年ピアノランドをご一緒に連弾していただけること、子供達のために「小学校1年生の小原くん」になりきって“爆笑レッスン”のコーナーで演技してくれること(打ち合わせなしのアドリブです)、ソロのコーナーでは「ブルクミュラー」からリストの「ラ・カンパネラ」まで幅広い演奏を聴かせていただけること、“HARA HARA 倶楽部”では一緒に作品を生み出し共演してきたこと……もう、感謝の言葉しかありません。

そうそう、そして、小原さんの弟子である孝之介との“師弟連弾”も披露していただきます。
樹原孝之介アレンジの「陽の当たる表通りで」「くるみ割り人形」「山の魔王の宮殿にて」(東京のみ)をそれぞれ二つのアレンジで。『ふたりで弾こう!ピアノびっくり箱2』も、お陰様で順調な滑り出しとのことで、ピアノファンに愛されるシリーズと育っていくことでしょう。小原孝さんが演奏されるプリモ(生徒パート)は極彩色で、メロディとはかく歌うべし!ということがわかります。

 

 

さらに、小原さんには当日、出来立てのホヤホヤで湯気が出ている私の新刊ピアノ曲集『風 巡る』 から初演していただく曲もあり、ダンサーの木原浩太くんが振り付けをして、コンテンポラリーダンスを披露してくれるのも大きな喜びです。音楽に触発されて「巡る」や「小さなお伽話」(初演)がどのようなパフォーマンスになるのか、その瞬間をご覧いただけたら幸いです。木原浩太くんは、ピアノランド育ちの音感を生かし、母譲りのダンスの才能を世界レベルまで開花させて活躍中で、この機会にご覧いただき、ダンスの公演にも足を運んでいただければ幸いです。

 

 

芸術というものに、小さい頃から触れさせてあげたい。そんな小さな願いが18年続いたことで、「子どもの頃見ました!今はピアノの先生になって生徒と来ました」という方や、ピアノランド育ちでボランティアスタッフをしてくれる人が現れたりと、続けて来たからこそという嬉しいこともあります。いつまで続けられるかはわかりませんが、この目の前の1回を大切に!と思います。

 

今年の東京公演も、どうぞ、ご一家で楽しんでいただけますように!

 

ピアノランドフェスティバル

 

 

樹原涼子
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