本当に心から必要と思うものだけを作って来た 『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』
ピアノランドのスタートは、子供達にとってもっと楽しく音楽を教えることができるはず、という確信があったから。
音楽そのもので音楽を教えたい。
そうすれば、ピアノを嫌いになるはずがない。
音楽を好きになったら人生はもっと楽しくなるし、ピアノを好きになったらこんなに幸せ!
ほら、一緒に弾こう! 歌おう! 合わせてみよう。ハーモニーが生まれるでしょう?
そうやってピアノランドを書き始めました。
そしてあっという間に25年が立ちました。
つい最近出版した『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』は、子供のためだけの楽譜ではなく、大人になっても使える、と言うよりは、プロにとってもも必要だと思うことを、子供の頃からコツコツ教えましょうよ! というつもりで書きました。
この本も、心から必要だと思って作りました。
まず、最初に喜んでくれたのは、かなり勉強をしているピアノの先生とピアニストのみなさん。
この本は大きく3つに分かれていますが、はじめは24調のスケール、半音階、全音音階、ディミニッシュスケール、五音音階等について、樹原涼子流のしくみの説明と、考え抜いた練習方法をまとめたものです。
●スケール
「こんなに美しいカデンツを何種類も書いてくださってありがとうございます! ハノンのスケールのカデンツしか教えられなかったので、これまで曲の中でのカデンツに結びつけることができませんでした。今はカデンツの違いを感じて練習しています。私が嬉しいです。勉強します」
「スケールの練習は意味もわからずしてきました。でも、意味がわかれば楽しくなるのですね。スケールって美しいんですね」
「スケールのしくみを子供の頃に知っていたら、人生が、音楽の勉強の仕方が変わったと思います。どうして今まで、こういう本がなかったのか不思議なくらいです。できたものを拝見してなるほど!と思いますが、それを思いつかれたことが素晴らしい」
「半音階と全音音階とディミニッシュスケールが順番に並んでいる深い意味が凄いです。子供に教える前に、私が勉強しなくてはなりません」
と、すでに沢山の声をいただいています。
ありがとうございます。わかってくださる方に出逢えるととても嬉しいです!
「でしょう?」と言いたくなってしまいます(笑)
スケールとはどんなに美しいものか、作曲家として知ってほしい、感じてほしいと思い、この本を書きました。
オクターブユニゾンと反行するスケールをどれだけ音程(二音間の距離)を感じながら美しく奏することができるか、そこが勝負だと思います。
等距離で寄り添うように上下する美しさや、反対方向に動いていくことにより刻々と変化する音程関係にトキメキを感じたりできるか、その人の耳や感受性が試されます。
隣り合った音との音程関係、上下に響く音同士の音程関係等を、丁寧に聴いたり表現したりする習慣をつけるために、この本を使ってほしい。
そもそも音が美しくなければ、音程を感じる力がなければ、聴く人にとって“聴きたい音”にはなりません。
テンポが速く、音が大きくなればなるほど、それはどんどん汚くなってしまう。
スケールを耳を使わずに雑に練習するのは、聴かないで弾く習慣をつける、という恐ろしいことになるのです。
もっと聴きたいと思うような美しさでテンポアップできることを目指してくださいね、絶対!
●ホルショフスキーのこと
昔、モーツァルトの再来と言われたホルショフスキーというピアニストの番組を見ていて、スケールを練習する様子を見て涙が出そうになりました。
随分前に亡くなっていますが、番組当時96歳くらいで奇蹟のピアニストと呼ばれていて、実際、彼がアンコールにスケールを弾くと聴衆は涙を流して喜んだとのこと。
画面を見ているだけで衝撃が走るほど美しかったのですから、ホールで生のスケールを聴いたら涙が溢れてしまうことは容易に想像できます。
彼の音は真珠のようでした。
美しい真珠を繋げたネックレスのようなスケール。
それはどこから見ても美しい上品な輝きを放っていて、なぜこのようにスケールが演奏できるのかと息を飲みました。
凡人には、そもそも一音を真珠の様に輝かせることすら難しく、小石を糸で繋いだところでゴツゴツとした重いだけのネックレスになってしまう……。
あれから、私の中ではスケールは退屈なものではなく、憧れにもなったのだから凄い影響力です。
この本を書く理由は、すでにあの時に生まれていたのかもしれません。
余談ですが、7月に武蔵野音楽大学の教員免許状講習会の中で『耳を開く 聴きとり術 コード編』『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』さらに“二段階導入法”を題材に、「これからの音感教育」と題して6時間4コマの講義をしました。
その中でスケールやモード(教会旋法)、コードを取り上げましたが、「講義や試験の中でスケールを弾かれる時(スケールの聴きとりもしました)、無機的ではなくとても音楽的に演奏されるのでびっくりしました」との感想をいただき、ホルショフスキーの足元にも及ばないのは当然ながら、心の中で「うふ♪」と思った私でした♪
●「スケール」とは「物差し」という意味です。
音楽を作る上で、作曲家はどの物差しを使うか考えます。
長音階だったり短音階だったり、半音階、全音音階だったり、時には変わった音階を使って曲の雰囲気をガラリと変えます。
作曲家は、1曲を同じ物差しで通すこともあれば、何度も物差しを持ち変えることもあります。
物差しの種類を学び、音楽の要素を心に刻み、耳に刻み、その意味を聴きわけられるよう、弾きわけられるように教育できるはずではないか。
そして、カデンツは思いっきりスケールをガチャガチャ弾いたあとで「ジャンジャンジャンジャーン」と弾けばいいと思っている人に対して、「調性のある曲が終るためにはカデンツが必要で、その終り方には何通りもの無限の美しさがあるの。だって曲の終り方は様々でしょう? そのサンプルとしてスケールの後にカデンツを弾いているのだから、繊細なコントロールで和音を感じて弾かなくてはね!」と教えるための素材が必要でした。
そう、一から、自分の思うように作ることが必要だったから、『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』を作りました。
そのためにどのような工夫をしたのかは、実際にセミナーや勉強会で具体的な話や演奏を聴いていただきたいのですが、なぜ、どうしてもこの本が必要だったかを伝えたかったので“時々日記”に綴りました。
次は、なぜ「モード」を書かなくてはならなかったか、その次は、なぜ「コード&アルペジオ」を書かなくてはならなかったのか、つづけて書いてみたいと思います。
『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』の出版記念セミナーは、9月27日(火)に、カワイ表参道で開催いたします。
残席僅かとのことですがまだ受け付けていると思います。
カワイ表参道 TEL:03-3409-2511 mail:omotesando@kawai.co.jp