『やさしいまなざし』勉強会のあとで

『やさしいまなざし』勉強会のあとで

樹原涼子の作品を勉強したい人が集まって、ピアノ曲集の勉強会を開催しています。

その中の1つ、私が担当している『やさしいまなざし』勉強会が、5月8日に終了、受講生による曲集の全曲リレー演奏で終了しました。

写真の左は、10回に渡って勉強したピアノ曲集『やさしいまなざし』(音楽之友社刊)。

右は、受講生のみなさんが心をこめて書いてくれた記念のメッセージブック。

 

『やさしいまなざし』勉強会最終回

 

勉強会をスタートしたのは、「東京のマスタコースには遠くて通えないピアノの先生達のために、講師を派遣して勉強のチャンスを広げてもらおう!」と思ったのがきっかけでした。

はじめは「ピアノランド勉強会」だけでしたから、卒業した人が何度も繰り返し受講していましたが、現在ではコードや“聴きとり術”、曲集のクラス等盛沢山のコースがあり、複数のクラスを続けて受ける人が増えました。

勉強をつづけている人は、あるとき突然(本当に突然!)急カーブで伸びることに驚きます。

「コード塾では勉強したことが“点”だったのですが、マスターコースに来て突然点と点が繋がって、あ〜これだ!と」「ピアノランド勉強会では系統立てて指導する自信がつきましたが、自分のコード感はまだまだでした。でも、聴きとり術勉強会では自分の音楽の聴き方、聴こえ方が変わって大事件です」と話された方も。

人によって、カチッとスイッチが入る場所が違うのが面白い。

そして、自分を伸ばしていこうという人の集まりは凄い、と毎回思います。

 

 

今では毎月30クラスに講師を派遣して、約240人が各種勉強会受講中です。

私が直接教えている「ピアノランドマスタコース」「コード塾」を合わせると300人以上の人が、継続して勉強中です。

単発のセミナーでは、勉強すべきことが発見できます。

それを実際に勉強できる、大学院のような、ゼミのような、長期間研究して自分を伸ばしていく場を作りたかったのです。

そして、その夢は日々実現しつつあり、すでに3,000人以上の人が卒業して各地で実績を上げています。

 

 

 

そんな中でも、上の写真の『やさしいまなざし』勉強会は、特別に思い入れのあるものです。

理由は2つあります。

まず、父が母を看病しながら、とてもやさしいまなざして母を見ていることに心打たれて作曲したのがタイトル曲「やさしいまなざし」で、初めて父に捧げたピアノ曲集でもあること。

そして2つ目は、この曲集によって、「自分は近現代の曲を書いているのだ」と改めて意識させられたことも忘れられません。

 

昨年出版されたムジカノーヴァ別冊で「4期の演奏と指導のポイント」の特集で、バルトーク、カバレフスキー、ギロック、樹原涼子(曲例は「やさしいまなざし」で、小節線のない曲の解釈について)が近現代のカテゴリーで取り上げられました。

目次を見たときに、バロック、古典、ロマン派の作曲家は当然として、バルトーク、カバレフスキー、ギロックもすでにこの世になく、「生きているのは私だけ!」……と、軽いショックを受けました。

彼らがもし生きていたら…順番に、134歳、111歳、108歳!

特にギロックは、全音版が出る以前から輸入版で使っていて、ピアノランドが出版された2年後に亡くなったので、同じ時代を生きた作曲家として親しく感じています。(カバレフスキーとギロックは、祖父母の世代だと思うと、時の流れが意識しやすくなりますね)

 

 

以前は、「作曲家の手を離れた作品は、演奏する人に委ねる」しかないと思っていましたが、この頃では、できることなら自分でしっかりと伝えられることは伝え、楽譜は自分の手で、できるだけ完全な形にしておきたいと思うようになりました。

作曲家の意図はこうではなかったかと、100年前、200年前の作品についてああでもないこうでもないと世界中の人が研究を重ねて、時代が進むにつれ研究は深まり、校訂版や原典板が次々に出て……。

ですから、作曲者自身が作品について伝えるべきことを伝えるのは、大切なことだと思うのです。

意図を正しく伝えた上で、演奏者に委ねる。

その努力を私なりにしているのが、『こころの小箱』『夢の中の夢』『やさしいまなざし』などの曲集の勉強会なのです。

 

5月8日に卒業したこのクラスは、長崎、大阪、名古屋、蒲郡等遠方からの受講生が多く、とても熱心に勉強を重ねてきました。

2011年発行の『こころの小箱』、2012年の『夢の中の夢』、2013年の『やさしいまなざし』の全てを、最初のクラスだけずっと私が担当してきたので、約4年間に渡り教えて来たことになります。(2クラス目以降は講師が各地に指導に行っています)

 

受講生は当初に比べて夢のように上達しました。

とくに、音色、テンポ感(アゴーギグ)、ペダリングなど、「こんなに気を遣って弾いたこと、(自分の音を)聴いたことはありませんでした」の連続でしたから、最後の卒業演奏会ではやり遂げた感動で涙ぐむ人も。

作曲家冥利に尽きるとはこのことで、自分の作品のスペシャリストが育っていくのはとても嬉しいものです。

メッセージブックを見ながら、作曲に費やした膨大な時間と、カリキュラム、レジメ作り、勉強会までの一連の準備の大変さが思い出されましたが、なぜかちっとも苦労した気がしないのです。

みなの演奏の素晴らしさや、どんなことが書いてあったかは、とても書ききれません。

 

さぁ、これからは、次の曲集にとりかかります。

また、みなさんの人生の時間が豊かになったと言っていただけるような作品を生み出せたらと思います。

 

 

 

 

 

 

樹原涼子
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