樹原涼子ようこそピアノランドへ!

 
 
 


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蒸し暑い天気が続きますね。

 お元気ですか?

 5月21日、紀尾井ホールでのアルゲリッチ音楽祭室内楽コンサートを満喫してきました。
 1999年の2回めのアルゲリッチ音楽祭の時は、思い切って仕事を休んで何日間か心の洗濯をするつもりで別府を訪れたのですが、ムジカノーヴァの方につい口をすべらせたらアルゲリッチの取材を頼まれてしまい、予定の“温泉とお客さん気分”はフイに……。でもお陰でとても密度の濃い数日を送ることができました。ギトリスやフー・ツォンとも親しくお話できたし、レセプションではネルソン・フレイレとも…… そして、スタッフとの打ち上げパーティーにまでご一緒させて頂き、アルゲリッチの今は亡き弟さんがカラオケで歌ったシーンも懐かしい!
 でも、何よりアルゲリッチと並んで歩きながら話したことがとても印象的でした。
 「非公開のレッスンをぜひ拝見できたら嬉しい」と話したら、「ダメダメ、作曲家なの? ダメ。私は人に教えるのはとても苦手なのよ。それはとても難しいこと。その人のためにどこまで踏み込んでいいのか、とても難しい。他の人のレッスンを見ると、そこまで言っていいのかと思うことがある。私より教えるのが上手な人はたくさんいるから。だから……」と。
 これは、“教える”ということが、ひとつ間違えればその人に“あるやり方を押しつけてしまうことになる危険があること”でもあるのだと考えさせられました。
 私たちは、簡単に教え過ぎていないか――。そして、教えることを簡単だと思っていないか――。
 そんなことを思い出しつつ、開演を待ったのでした(私にしては珍しく、開場時間前に着いたので、ニューオータニに寄ってから出直したりしておりました)。

 トップバッターは、樫本大進&ネルソン・ゲルナーでシューマンのヴァイオリン・ソナタ 第1番。いきなり観客の心をわしづかみにするような集中力! 一音一音への思いの込め方、音楽の運び方が彼独特で、すばらしい演奏でした。また、彼の演奏会へも行ってみようと思います。

 そして、ミッシャ・マイスキーのバッハの6つの無伴奏チェロ組曲より第1番。ずっと前にサントリーホールで聴いた時とはまた趣の違う、今のミッシャ・マイスキーの演奏。こうして、音楽家は年を重ねていくのですね。どんどん、自由になっていくミッシャ・マイスキーを感じました。

 そして、お待ちかねラフマニノフの交響的舞曲op.45。私は上手側のわりと前の方にいたので、デュオの時、アルゲリッチは顔しか見えないと予想していたのですが、なんと上手(客席から見て右側)のピアノに! そして、下手がゲルナー。もう、ステージに一歩踏み出した瞬間から圧倒的な存在感! どっしりと座って身体も頭も肘もほとんど動かないのだけど、ほとばしるように音楽があふれ出す魔法。そう、これがアルゲリッチ。ただただ、聴き惚れて幸せ! もちろんゲルナーさんだってアルゲリッチにぴったりついて素晴らしいのですが、アルゲリッチはピアノを鳴らしているのでなく、紀尾井ホールを鳴らしているのですから…。

 アルゲリッチ音楽祭でいつも思うのですが、どんな超一流の音楽家たちでも、アルゲリッチと共演するというのは特別なことなのでしょう。もちろん、演奏家はどのステージも大切にするのですが、共演している演奏家はいつもいつも幸せそう(というか、必死!ですが)。

 後半は、皇后陛下がいらっしゃって、会場はますます華やいできました。
 武満徹のワルツを、初々しく桐朋学園オーケストラで。そして次は、樫本大進&川本嘉子(ヴィオラ)とオケで息の合ったモーツァルトの協奏交響曲。
 ラストは、ミッシャ・マイスキーとアルゲリッチでグリーグのチェロ・ソナタ イ短調op.36。この迫力は何と申しましょうか、もう浮き世のことはどうでもよくなって音の渦の中に飲み込まれてしまったよう。正確無比なのに、どこまでも音楽的、ものすごい勢いで疾走したかと思うと、気がつくと静かな波の中、つまり、気づかないほどに自然なルバート。あたたかく、やさしく、力強く、音楽の全てがそこにありました。夢が醒めてしまわないように、ずっとずっと聴いていたかった。

 それにしても、音楽祭を10年間続けて企画していらした、アルゲリッチの愛弟子である伊藤京子さんのご苦労に頭が下がります。物事は、やり続けることでどんどん光を増してゆくのだと感じました。私も、自分の器でできる精一杯を続けていこう! それはそれはエネルギーをいっぱいもらえた1日でした。

 終演後は、小原孝さん、編集者、スタッフと興奮と余韻の中、「すごかったねー」「いゃー、すごかったねー」と打ち上げ、ではなくて打ち合わせ。やっぱり、いいものは誰かと分かち合えると何倍にもなります。
 そして、2日おいて24日は、青柳いづみこ先生の連続コンサートで、ドビュッシーの歌曲。野々下由香里さんのソプラノの美しいこと。青柳先生の音色の繊細で美しいこと! お二人の質感の調和にうっとり。知的で品のあるこの音色を聴いて欲しくてたくさんの人に声をかけたら、ずい分会場でお目にかかれて嬉しい。
 コンサートって、聴くのも開くのも楽しいものですね! なんて、しめ切りを差し置いてこんなにたくさん書いている場合ではないのでこの辺で! これから大阪入りで27日(火)はコードネームのセミナー。原稿持って行ってきます!


 P.S. 1 6月1日にパリ・コンセルヴァトワールの教授イヴ・アンリ先生のショパンのレクチャーコンサートがあるのですが、フランスから女優さんを同行してのステージと聞きました。ホームページを見て行こうか迷っていたのですが、何だかワクワクしてきました。あれとあれの原稿が終わったら行こうっと!

 P.S. 2 6月5日(木)、古典〜ロマン派のコード分析セミナーにもぜひお出かけくださいね!

2008年05月26日 樹原涼子
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