『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』ができるまで

『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』ができるまで

『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』が、いよいよ発売になります。

この本の誕生にあたって、忘れてはならない人を紹介しながら、
この本はどうやってできたのか、しっかりと日記に書いておこうと思います。

「ピアノランド」シリーズや『耳を開く 聴きとり術 コード編』『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』と並んで、この本は私にとってとても大きな一歩となる、と確信しています。
ずっと、初心を忘れないように。

 

亡き父からの一言から

 

この本を作ったきっかけをどんどん遡っていくと、今は亡き父、長谷川孝道からの一言に辿り着きます。

 「音楽がわからない素人からの質問として聞いてほしい。一般の人に作曲を易しく教えることができないだろうか? 素晴らしい曲が作れなくてもいい、どうやったら曲を作れるのか、そういう楽しさや方法を考えてみたらどうだろう」

 

 (2018年の正月、実家にて)

 

驚きました。
父はそれまで、こちらから相談することはあっても(初めての本を出す頃には、プロフィールや前書きを見てもらったことがあります)、私の仕事に対して何か意見を言ってくれることはほとんどありませんでした。

以下、その続きを『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』の前書きから引用します。

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「ええっ、誰でも作曲できるように?」それを聞いたとき、私はそんなことは無理、と思いました。作曲には音楽的知識、センスが必要だし、いきなり作曲なんて。「それは難しいと思うよ。作曲はそもそも、教えられるものではないと思う」と答えたのでした。

ですが、その問いはずーっと何年も私の中に生き続けていました。

専門家も、生まれたときから専門家だったわけではありません。その道に興味を持って、やっているうちに夢中になって、気づいたら趣味に、いつしかプロになって……というプロセスがあります。その最初の、興味が持てる入り口の形や、楽しめる方法を考えることなら、私にできるかもしれない! と思うようになりました。

一般の人にも子どもにも「音楽をつくってみたい!」と思ってもらえる切り口は? 

いきなり1曲作って楽譜に仕上げるのは敷居が高いでしょうが、その元となる、“音楽の種”(ちょっとしたメロディやフレーズ、リズム等)を見つけて、自分らしく即興的に表現してみることが入り口だとしたら? 楽譜に書かずとも、鼻歌でも、ハーモニカや縦笛でもいい、音が生まれる心地よさを体験しているうちに、沢山の発見があるのでは? 書けるなら書けばいい。録音してもいい。合奏してもいい!

いつの間にか私は子どもたちや保護者に作曲や即興のワークショップを、ピアノの先生のクラスで即興やアドリブを取り入れ、「楽譜を見て弾くだけじゃもったいない。あなたにも曲は作れるし、即興演奏、アドリブだってできる!」と講演するようになっていました。父の言葉は偉大でした。しかもこの本で扱う12の方法は、音楽のしくみや形の美しさ、響きの美しさを知るための要素が満載。実践して得られる知識と耳力と度胸は、人生を生き抜く大切な宝物となるでしょう。

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父の言葉で作曲についての考え方が変わった私は、その後、セミナーや勉強会で音楽を作ってみよう、鼻歌を書き留めてみよう、と様々な試みをしながら、『ムジカノーヴァ』に連載を始めました。

2017年9月から8回「『ピアノランド スケール・モード・アルペジオ』活用法」の連載で、即興演奏や作曲の素材としての活用を提案、つづいて、2018年5月から1年間「憧れの即興演奏の扉を開こう〜あなたにもアド・リブができる〜」で、即興演奏の具体的な手法を提案しました。

 

 

大人用から、子ども用に切り替える!

 

連載は切り抜いてファイルしてレッスンに使う方が多く、全国から実践しての感想やリクエストが寄せらました。これは大いに役立ちました。連載はピアノの先生方を対象として、レッスンに使っていただくためのものでしたが本を作るにあたって、対象を子供にしたのです。編集の山本さんともじっくりと話し合い、教える人が迷わない本に、ダイレクトに子どもが理解できるように、そして、大人だって使えるようにと。

 

子供自身が読んで理解していく、
「習う」のではなく「発見」する本にしよう。
思いついたことをどんどん書き留めて、
自分のアイディアを温める習慣ができるように。

何度も繰り返すたびに、新たなことが思い浮かぶように、
自分の進化が感じられるように。

一つ一つの扉はシンプルで、
でも、振り返ったら12の扉を駆使して
いろんなアイディアが出てくるようにしよう。

つまづいたときも、
そんなことはよくあること!
仲間が励ましてくれるように……
可愛いイラストで楽しい時間になるように。

 

 

イラスト:トナカイフサコ

装丁、イラスト、本文のレイアウトをトナカイフサコさんにお願いして、即興演奏の森の中はとても楽しい世界観ができました。連載時からのお付き合いなので、いろんなことがスムーズに。ピアノランドをチームで作ったときのことを思い出しながら、楽しく制作が進みました。

フサコさんは、8月2日のピアノランドフェスティバルでサイン会に参加してくれます。彼女のデビュー作「はじめてフィンランド 〜白夜と極夜 ひとり旅〜」も当日販売します。

 

 

即興スペシャリストからのメッセージ

「即興」と聞いただけで固まってしまう人が多いかもしれないので、「大丈夫、即興って楽しい!」と言っていただけそうな素晴らしいゲストお二人に登場いただくことにしました。

 

 

まず、お一人目は、日本で「即興」と言えば、大友良英さん
大友さんのお人柄や最近の活動はこちらのウェブ記事でもお読みになれます。

大友さんに登場していただくきっかけは、父長谷川孝道の著作『走れ二十五万キロ 金栗四三伝』がNHK大河ドラマ「いだてん」のベースになったことから、NHKホールでの「いだてんコンサート」を拝見したり、新宿ピットインでの、会場のみんなで作る即興イペントに伺ったり。
即興演奏は特別なミュージシャンだけのものではなく、誰でもできるもの、障害のある方達とも、偶然そこに居合わせた人とだってできるものだと。「いだてんコンサート」ではN響のメンバーに即興をさせてしまうって、前代未聞のことをサラリとされていて……一言では言えませんが、もう、本当に素敵な方です。

父の本もボロボロになるまで読んでくださっていて、どんなにNHKのスタッフのみなさんが参考にしてくださったか、心から感謝してくださったことも嬉しかったし、インタビューでの飾らない本音だけの言葉にも感動しました。この本にインタビューという形で参加していただいて、本当によかった!
p.30ページのインタビューには、大友さんの生き方そのものが凝縮されていて、ああ、これは先生や親御さん達に何度も読み返していただきたいなぁと思います。

 

 

次のページは、連載中にも毎回一言を書いてくれていた滝澤志野さん
ウィーン国立バレエ(ウィーン国立歌劇場)専属ピアニストとして活躍中。最近の記事はこちら。

 

「クラシック畑で育ちながら即興演奏ができるようになるって、いったいどうやって?」
という疑問を持たれる方も多いとおもいます。そんな方達に、ぜひ、p.31をお読みいただきたいのです。志野さんの即興演奏の進め方は、大友さんとはまた違う角度から、私たちを励ましてくれます。

嬉しいことに、ちょうど夏休みでウィーンから帰国中の志野さんが8月2日のピアノランドフェスティバルに登場、『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』の発売を記念して、即興演奏を披露してくれることになりました♡ みなさん、お楽しみに!

 

 

感謝を込めて

 

こうして、世にも不思議な本が出来上がりました。
「こんな本、見たことがない!」と、手に取った方がびっくりしてくださるのが本当に嬉しい!
連載を読んで楽しみに待っていてくださった皆さま、お陰様で、やっと形になりました。
応援してくださって、ありがとうございました。

 

使い方についてはまた改めて書きますが、忘れてはならない人を紹介して今日はこれにて。

♡『ムジカノーヴァ』でお世話になった編集長の西脇朗子さん、担当の宇野由希子さん、お世話になりました!

♡本書の編集担当の山本美由紀さん。思いの外大変でしたが、お陰様で子ども達に喜んでもらえる本になったのではと思います。本当にありがとうございました!

♡寝ても覚めても校正作業に明け暮れた日々を共にした秘書の小岱紀和子さん、ありがとう。

♡最後に、私とピアノとの出逢いをくれた母、長谷川弘子に感謝を捧げます。母のおかげで、音楽の喜びを広めていく人生が拓けました。もう少し、見守っっていてください。

 

『即興演奏 12のとびら 音楽をつくってみよう』音楽之友社

  • 【定価】 1,512 円 ( 本体1,400 円)
  • 【判型・頁数】 B5・56頁
  • 【発行年月】 2019年7月

 

 

 

樹原涼子
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