母の前でコンサートができた! 突然叶った夢

母の前でコンサートができた! 突然叶った夢

8月17日、嬉しいことがありました。

寝たきりになった母には、もう、私の演奏を聴いてもらうことはできないと、長いこと諦めていました。
けれど! 奇跡は起こりました。

個人的なことですが、私の音楽活動とも密接にリンクしていることなので、webの日記に書くことにしました。

 

熊本地震以来、何度となく体育館や仮設住宅、病院等へボランティアコンサートに伺うと、両親の年齢に近い方にお会いすることが多く、その度に「母が聴いてくれたらどんなに喜ぶかしら」と思う私がいました。

子供の頃の本番の衣装は母の手作りでしたし、演奏会を開くようになるとその度に、演奏と衣装とメイクについて感想やアドバイスをくれた母。

熊本県立劇場で昨年夏にピアノランドフェスティバルを開催したときも、樹原孝之介作曲のオペラ「笛姫」が上演されたときも、父は、ヘルパーさんの助けで、親戚や友人と一緒に車椅子席で鑑賞することができました。

ただ、やはり、音楽が好きだった母に聴いてもらえたら……という気持ちはいつもあって、病院に行くと枕元で歌ったり、携帯の録音をそっと聴いてもらったり。

 

今年の春、母は退院して、老人介護専門の施設に入りました。そこでは、寝たきりにさせないようにと大型の車椅子(首をしっかりと支え、背もたれの角度がベッドから椅子の状態までほぼ無段階に調節できる)に乗せて、広い所内を散歩したり、大きな窓の近くで白川を眺めたり、ベッドから移動できるようになったのです!

とは言え、外のホールで音楽を聴くことはできません。

ベッドから離れられる時間が持てるだけでもなんて幸せなんだろう!と思っていたのです。

が、先月、母を見舞ったときに施設の方に「昨日は父の施設で息子とコンサートをして……」と話したところ「音楽家でいらっしゃるのですね! それでは、うちでも音楽会をしていただくことができますか?」「えっ! ピアノがあるのですか?」「ええ、別のフロアに。アップライトでよろしければ……」「もちろん喜んで!」というわけで、私の長年の夢が突然叶うことになったのです。

 

大急ぎでいろいろとスケジュールを組み、調律の手配をして、父も福祉タクシーの送迎で母と一緒に聴けるように段取りを整え、プログラムは孝之介と一緒に練りました。

 

 

『ふたりで弾こう!ピアノびっくり箱』(樹原孝之介編曲/アルソ出版)の2冊から、母の好きな曲を選び、みなさんにも喜んでいただけるようにと、下記の曲を演奏しました。

エーデルワイス

のばら

くるみ割り人形

花(滝廉太郎)

故郷

 

 

そしてクラシックの名曲でうっとりしていただこうと、ベートーベンのソナタ8番(悲愴とは言わずに……)の第2楽章を孝之介が演奏。

そして、母を見舞ったときに母が微笑んでくれた喜びを左手と左手の連弾曲にした「母の胸に」を演奏。母に、初めて聴いてもらえたことがとても嬉しい。
『時の旅』の楽譜にこの曲を収めたことを母に伝えたくて、皆さんに表紙をお見せしました。

 

 

 

エンディングは、ちょっと喉の調子が心配ではあったのですが、どうしてもこの機会にと「子供達へのバラード」を弾き語りしました。母も、そして会場で聴いてくださった皆様も、喜んでくださったようでホッとしました。

 

手作りの、心のこもったコンサートタイトル、ありがとうございます!
アンコールを『ピアノびっくり箱』のどれにしようか相談中。
ベートーベンの「喜びの歌」と「赤とんぼ」の連弾に決まりました。

 

 

お世話になった施設の皆様、調律の岩本さん、本当にありがとうございました。
またいつか、参ります。

孝之介に弾いてほしいと終演後「ラ・カンパネラ」のリクエストもいただきました。そう言えば、孝之介が高校生の頃に発表会で弾いたのを母が喜んだことを思い出します。次回のプログラムも楽しみです。

 

この日、ピアニストの月足さおりさん(彼女とはこの春「母の胸に」を「オハイエ」で連弾しています!)が、お友達のピアノの先生と一緒に来てくださって、嬉しい再会。
さおりさんは、ピアニストの命である「手」の治療中で、1日も早く回復するようにと彼女のファンや生徒さん、友達、皆で祈っているところです。

 

 

また、偶然にも入所されている父母の友人にも聴いていただくことができました。
音楽を聴いて、みなさんが心から笑ってくださるのが本当に嬉しい。
こうして、人生の大先輩に感謝をこめて演奏を聴いていただける機会をこれからも大切にしていこうと思います。

 

 

 

ちょうど明日は父の誕生日なので、父にも、母にも音楽のプレゼントができました。
両親も、そして今日聴いてくださった方が元気でいてくださるようにと、またお会いできるように、聴いていただけるようにと、心から祈りながら帰途につきました。

時が流れていくのは止められないけれど、後悔しない時間を過ごせるようにと、自分に言い聞かせながら……。

そんな祈りを、震災後変わってしまった実家の周りの景色を見渡しながら、少しだけ夕方の風に吹かれながら思うのでした。

 

 

フォレスト熊本のスタッフの皆様、ありがとうございました!
(写真は、許可を得てアップさせていただいています)

 

 

樹原涼子
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