小原孝&樹原涼子デュオ・コンサート〜連弾で旅する珠玉の時間〜
樹原涼子作品の連弾だけで綴る、小原孝さんとの初のデュオ・コンサートが2月24日、音楽の友ホールで開催されました。昨年、連弾組曲集『時の旅』を発表して好評だったことを受けて、音楽之友社主催での演奏会が決定したときは本当に嬉しく、この日のためにコツコツと頑張ってきました。沢山のお客様に「連弾」の素晴らしさと魅力をお届けできたのではと思います。ベーゼンドルファーインペリアルから溢れ出る虹色のハーモニーに浸りながら、作曲家冥利に尽きる時間を味わいました。小原孝さん、ご来場の皆様、調律の水島さん、音楽之友社の皆様、ご協力いただいた多くの皆様に心から感謝いたします。
小原孝&樹原涼子デュオ・コンサート~連弾で旅する珠玉の時間~
2019年2月24日(日) 音楽之友社主催 音楽の友ホール
トナカイフサコさんの素敵なイラストは、今回のコンサートのイメージとぴったり!
チラシ&プログラムの表紙、大好きです。
客席には、青柳いづみこ先生、内藤晃さん、藤木明美さん、原美千代さんとピアニストのお顔が沢山。そして、作曲家の轟千尋さん、ソプラニスタの木村優一さん、音楽ジャーナリストの池田卓夫さん、写真家の遠藤湖舟さん(『時の旅』の表紙に作品を使わせていただき、今回の演奏にも大変影響を受けました)、曲集の表紙を沢山描いてくれている本間ちひろさんもおいでくださいました。武蔵野音大の大内孝夫先生、チラシの素敵な絵を描いてくれたトナカイフサコさん、ピアノランドのデザインの風間英美さん、ピアノランド出版のきっかけを作ってくださった早川元啓さん他、お世話になった多くの方々が客席にいらして、胸がいっぱいです。
そして、北海道や九州、関西、四国と各地からおいでいただいた皆さまの温かい拍手に、心から感謝いたします。
『音楽の友』『ムジカノーヴァ』『ピアノランドメイト』にも取材記事がでますので、そちらもお楽しみにお待ちください。
(演奏中の写真は、解説があるものを除いて全て満田聡さん。連弾の細かい表情をキャッチして、まるで音が聴こえてきそうです!)
第一部は、『ピアノランド』5巻の「Little Fantasy」からスタート。
ピアノランドフェスティバルでも何度も演奏した曲ですが、デュオコンサートではまた違った気持ちで。海の底に住む「マーメイドの夢」を、いつもより少し大人っぽく、幻想的に表現しました。
リハーサルと本番では、本番の方がずっと演奏に集中することができます。それは、多分、会場中に「耳」がいっぱいあるからではないか……と思います。音の行方を聴こうとして、みなさんが一斉に耳をすましているこの瞬間が大好き。みんなの耳から心へと、音が吸い込まれていくような感覚が、コンサートの間中私を包んでいました。本当に、お客様になんとお礼を言ったらいいでしょう。大ピアニストが観客の素晴らしさを讃えるのをよく聞きますが、聴衆の耳のおかげで深く集中できるということかなと思います。
次は、2011年、東日本大震災の直後に書いたピアノ曲集『こころの小箱』から3曲を演奏しました。
「風はどこから」
「心に羽をつけて」
「いかないで」
曲集を発表した頃とはまた異なる解釈で、ルバートや強弱、テンポ感も「今」の表現となりました。今響く音に触発されての演奏は、弾いている奏者にとってもスリリングです。
そして前半のメインとなるのは、連弾組曲集『時の旅』より子供のためのモード組曲「小さな時間旅行」。(遠藤湖舟さんの写真が素晴らしいでしょう? 「ゆらぎ」という一連のシリーズ、ぜひご覧いただきたいです!)
「小さな時間旅行」は、朗読と連弾を行き来しながらの演奏。
元々は、調性音楽だけではなく、モード(旋法)の世界を子供達にも楽しんでもらおうと、モードの名前を曲名に織り込んだ組曲を!と作ったものに、お話まで書いてしまいました。要約すると……。
星の光に誘われて、女の子が「ドリアンボートに乗って」時間旅行へと漕ぎ出します。
とてもいい気分で漕ぎ出したのに、風が強くなり、木の葉のように船は揺れ始めました。いつの間にか流れついたのは、不思議な「リディアンドールの家」。
そこで出逢ったリディアンドールとヒョロヒョロの熊のミクソリディアンは、大切な友達になって……。つづきは、ぜひ、楽譜の中の物語をご覧くださいね。
Ⅰ ドリアンボートに乗って
Ⅱ フリジアンの罠
Ⅲ リディアンドールの家
Ⅳ ミクソリディアンの活躍
このお話を読んでいると、いつも胸がキュンとなります。主人公の女の子になって物語の中に入り込んでしまいます。小原さんも、まるで熊のミクソリディアンになって一緒に時間旅行したみたい(最後の曲のポリリズム、素敵でしたね!)。
各モードの特色豊かな曲でお話を……と軽い気持ちで作り始めましたが、私にとって大切な、本当の物語になってしまいました。譜ヅラはやさしいのですが表現やペダルは難しく、子供達にも挑戦可能な曲です。ぜひ、子供達にこの不思議な面白さを体験させてあげてください。そして、自然とモードの良さがわかる感覚を磨いていただければ!
朗読も演奏も、みなさんの心の中に吸い込まれていくようで、熱い感想を沢山いただきました。ありがとうございました。
第二部
連弾は、先生がセコンド(伴奏)で生徒がプリモ(メロディ)と思っている人が多いのですが、そんな単純なものではありません。音楽全体を理解するためにも、相手が何をしているか知るためにも、パートチェンジして演奏してみるのはとても大事なこと。なので、「やってみますね!」というわけで、初めは私がプリモ、小原さんがセコンド、2回目の演奏では入れ替わってみました。
『こころの小箱』より「明日はいい日だ!」
ふふふ。
1回目は私の歌い方でメロディを、小原さんの感じ方で伴奏を。2回目はその反対パートを。
もう、お客様がびっくりされたお顔をここに載せたいくらいですが、大好評のコーナーとなりました。
友人からのメールに、
「二人がパートを入れ替わったのも、とっても面白かったです。
違うものなんだね、同じメロディー、同じピアノなのに~」
とありましたが、本当にその通りで、リズムの感じ方、ハーモニーの感じ方や伝え方、メロディの歌い方、全てがそれぞれ固有のものなので、パートが入れ変わると同じにはならないのです。バランスも音楽の流れ方も変わるから不思議です。
そして、いよいよ連弾曲集『時の旅』の2つ目の組曲、「美しい時間」です。
Ⅰ ゆらぎ
Ⅱ 青空の下で
Ⅲ 星の時間
Ⅳ 楽興の時
Ⅴ 母の胸に
人生のいろいろな時間を慈しんで生きていきたいと、綴った組曲。
各曲への思いは楽譜の解説に書きましたのでそちらに譲るとして、「ゆらぎ」はかなりのゆらぎでした! 「青空の下で」は超絶ポジション移動の曲で、飛ぶ、飛ぶ、跳ぶ、跳ぶ、の連続でスリル満点。「星の旅」ではアイオニアンモードの美しい穏やかな響きに浸って。
「楽興の時」は、楽譜に演技の指示をしていて、そこから起こる演奏のドラマが見ものです。お客様に、「奏者を見ててね!」と念押ししてから組曲をスタートしました(笑)。
ご覧のようにセコンド奏者が途中で寝てしまう指示が楽譜に書き込まれており、小原さんは爆睡。
「楽譜に「寝る」って書くなんて!音楽界の宮藤官九郎さんと呼びたいです!!」とメールをくれた友人もいました。
いづみこ先生から、どうしてあそこで寝てしまうのかという深遠な質問をいただきました!
どうしてこんなシーンを思い浮かんだのか思い出してみました。連弾を書いたら音出しをして確かめる必要があり、通りすがりの次男孝之介を「ちょっと弾いてね」と捕まえるわけです。完成するのはたいてい夜中で、初見で演奏しながらコックリしそうなのをつつきながら、「もう一曲。ね、よろしく!」とかやっていたから……かもしれません。が、しかし、よく考えたら、孝之介と試し弾きするときには演技シーンは出来ていたわけだから、どうしてだろう……? その前の曲を書いているときに彼が眠そうだったのか……。8ヶ月前の作者に会いに行きたい(笑)。
演技が終わったら、組曲の途中ですが拍手が沸き起こりました。そりゃあハラハラさせましたから、無事目覚めたのでめでたしめでたし!
というシーンを、音友スタッフのカメラが捉えてくれていました。
組曲「美しい時間」ラストの「母の胸に」は、左手と左手の連弾という珍しい作品です。
舘野泉先生と初演したときとも、倉敷と岡山で鳥越由美さんと演奏したときとも全く異なる、小原樹原版の「母の胸に」。
小原さんとは、たっぷりとルバートで聴き合う演奏で「楽興の時」とのコントラストも鮮やか。
連弾は、組むパートナーと共に新しい生命が吹き込まれていくのが面白いですね。
そして、最後はお馴染みの『ラプソディ第1番』。
「1番とあるからには、2番も出来るんだよね」と、小原さんにステージで何度も念押しされて、つい約束してしまった私ですが、でも、ちょっと待ってね、その前の宿題から順番に……もごもご。
と言いながら、心から楽しんだ『ラプソディ第1番』となりました。
写真は、ダブルでのグリッサンドのところです。
自分で書いた曲ですが、初演のときには死ぬほど難しく感じた「ラプソディ第1番」。今ではとても楽しんで演奏しています。あ、本当に2番を書きたくなってきた!
「ピアノから、色んな色が飛び出してきました。圧巻!」「心が疲れてたんだけど、ピアノっていいね。なんだか元気になった」「連弾って楽しそう〜。やってみたい」等々、音楽家ではない友人からのメールにもハッとさせられます。音楽は、人類の幸せのために神様がくれた贈り物だと常々思っていますが、さらに、音楽は愛でできている、ということを改めて実感したコンサートでした。もっともっとできる、と自分自身も励まされたコンサートとなりました。
いつもおつきあいくださる小原孝さん、今回も、本当に本当にありがとうございました!
***
開演前に、青柳いづみこ先生が楽屋を訪ねてくださいました。
もう、とても嬉しくて、夫に大急ぎで写真を撮ってもらいました。
このタイミング、凄く気合が入りました。さすがいづみこ先生✨
終演後、作曲家の轟千尋さんとソプラニスタ木村優一さんとパチリ。
なんとお二人は芸大の同級生で、体育のクラスが同じだったとか!
千尋さんとは4月3日に作曲家談話室でご一緒するので楽しみです。
小原さんとよく共演されている木村さんは熊本のご出身で、
孝之介作曲の「窓を開けてごらんなさい」を県立劇場で歌ってくださったご縁も。
珍しいメンバーでの写真、木村さんにいただきました。
こちらは、長年の秘書小岱紀和子さんの長男長女で、懐かしい私の愛弟子!
この春、ふたりともめでたく就職が決まり、素晴らしい門出を前にコンサートに来てくれて感激の対面でした。
“二段階導入法”でレッスンしていた幼い頃を思い出してうるっとしてしまいます。
最後に、チラシだけではなく、『ムジカノーヴァ』即興演奏の連載でもイラストを描いてくれているトナカイフサコさんとパチリ。私が持っているのは彼女の新著、『旅するトナカイの 春のタイ 水掛祭りひとり旅』。凄く面白いですよ!
サイン会でもっと沢山の方と写真が撮れたらよかったのですが、残念!
数えきれないくらい大勢の大切な音楽仲間が聴きに来てくださって、本当に嬉しく、幸せなコンサートとなり、何十年も作曲をしてきてよかった、練習時間を捻出できてよかった、喜んでいただけてよかったと、よかったの嵐。
何もない五線紙の上に、音符の玉一つ一つ書き込んでいく、その行方を一瞬ごとに決断する行為の連続が作曲。
一つ方向が違うだけで、もう違う曲になってしまうから、本当に曲が望んだ形に響きを立体的に仕上げていくのは根気のいることです。報われるとは限らない膨大な時間は、ひたすら音楽に捧げるものでしかなく、書き終えてもまた次はただの五線紙が待っている人生。それを励ましてくれるのが、演奏会なんだなと、心から有り難く、しみじみ感じました。
出版までの苦労を共にしてくださった音楽之友社の亀田正俊さん、山本美由紀さん、ありがとうございました。そして、今の私があるのも、ピアノランドの頃に育てていただいた天野登さん、須田栄子さん他、多くのみなさんのおかげです。
次に小原さんと共演するのは、小原さんのバースデイコンサート。
この日は、歌のユニット“HARA HARA 倶楽部”はとして、沢山歌を歌います。
一緒にお祝いいたしましょう!
2019年 3月 17日(日)16:30開演(15:45開場)
小原孝 バースデイ・ライブ
ゲスト:樹原涼子(HARA HARA倶楽部)
そして、作曲家としての嬉しい仕事がつづきます。
4月に、舘野泉先生に三部作を初演していただく予定なので、お聴きいただけたら幸いです!
2019年 4月 18日(木)12:00開演
《樹原涼子》を弾きたいシリーズ トーク&コンサートin汐留 ゲスト 館野泉
出演者:舘野泉×樹原涼
2019年 4月 20日(土)16:00開演
《樹原涼子》を弾きたいシリーズ トーク&コンサートin神戸 ゲスト 館野泉
出演者:舘野泉×樹原涼子