バスティン先生、ありがとうございました

バスティン先生、ありがとうございました

ジェーン・バスティン先生がお亡くなりになりました。
まだまだお元気でご活躍されているとばかり思っていたので、Facebookで訃報に接してとても驚き、また寂しい気持ちです。

1970年代からメソードを発表していらしたそうですから、50年近く世界の第一線でご活躍されていたことになります。私が子供の頃からバスティンメソードがありましたから、ピアノランドを出版してまだ間もない頃に日経新聞とローランド主催のシンポジウムで何回かパネリストとしてご一緒させていただく機会に恵まれ、とても光栄に思ったことを昨日のことのように思い出します。

パネルディスカッションのとき、「ここにいる私たちは(バスティン先生の他、イギリスと日本の教材執筆者が参加していました)方法は違っても、音楽という山を目指していることに変わりはない。方法が違っても、目指すところは同じです」と、相違点ではなく共通点に目を向けてお話しされていたことがとても印象に残っています。

たった一つの方法が正解ということはなく、目的のために登っていく方法はいくつもある。頑なに一つの方法に固執することはないとのお話しに、来場者はホッとしたのではないかと思いました。日本では、先生が提示したやり方を「正しい」と思って唯一の方法と思い込んでしまう傾向があるのを、何度も来日された先生はご存知だったのかもしれません。

まだ駆け出しの私はバスティン先生やイギリスの作編曲家の先生方と一緒に登壇するというだけでドキドキしていたのですが、バスティン先生は私の講演を聞いて、舞台袖で矢継ぎ早に質問されました。
「涼子、どうしてあなたはメトロノームを使わせないの? どうやってカウントを教えているの?」

「英語だったら、1and 2 and 3~と、拍の頭に重さがあって、裏拍のandでは軽くなりますが、日本語で1とー2とー3とー4とー、と数えてしまうと拍の裏の方が重ーくなってしまうのです。こう感じてしまうと、音楽がとても不自然になってしまうので、カウントするなら日本語ではなく英語の方がよいのです。でも、それは日本の教室で一般的ではないので、私はその代わりに、ミュージックデータを開発して、音楽そのものに拍をカウントさせて一緒に演奏するという方法を提案しているんです。ミュージックデータなら、メトロノームよりもずっと子供も喜ぶし、第一音楽的、というか音楽ですから」

というようなことを、拙い英語で必死に先生に伝えました。ちゃんと通じたかどうか不安でしたが、ピアノランドのミュージックデータを聴いてとても興味を持ってくださったことがちょっぴり嬉しく、大イベントが終わったときにはヘトヘトになりました。

 

そして、驚いたのは翌年のシンポジウムです。
バスティン先生もオーケストラ付きのミュージックデータを作って来日されたのです!
日本の若い作曲家がピアノレッスン用のミュージックデータを作っていたことが刺激になったのかと、またまたちょっぴり嬉しく、いいと思ったことはなんでもすぐに取り入れていかれることも勉強になりました。

英語で伝えきれないニュアンスがあり、私が日本語で話し始めたら、「ごめんなさい、日本語は挨拶くらいしかできないのよ」と仰ったこともありました。
音楽のことなら、だいたい歌ったり弾いたりゼスチャーでも通じますし、本番中は通訳の方もいるので不便はありませんでしたが、外国の音楽家とのコミュニケーション能力を高めなくてはと、何回か続いたシンポジウムのために英語の家庭教師についた時期もありました。
ちょうど子供達のために英語の先生に来てもらっていたので、私もついでにレッスンを受けて。
これも、バスティン先生とお話ししたことがきっかけだったなと、懐かしく思い出しました。

 

初めはご夫妻で、後にはお嬢様たちと教材を開発されて世界中に広まって、お幸せな人生だったのではと思います。これからも、バスティン先生の教材は世界中で使われていくと思いますし、「どんな方法でも目指すところは一緒よ」と仰った笑顔を思い出して、私も頑張らなくてはと思います。
初めてお会いしたのが20年くらい前のこととなので、すでに60歳くらいでいらしたのでしょうか、先生のバイタリティ溢れる講演と連日地方を回られるスケジュールに驚嘆したものです。

ほんの数回ではありましたが、講演を聞かせていただき、パネルディスカッションをさせていただいたことはずっと忘れません。大変勉強になりました。心から御礼申し上げます。

これからも、世界中の子供たちにずっと先生の本は愛されてつづけていくことでしょう。素晴らしい贈り物を、ありがとうございました。天国から、世界の子供たちの音楽する様子を見守っていてください。どうぞ安らかに!

 

 

樹原涼子
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