樹原涼子 ようこそピアノランドへ!

 
 
 

作曲家は、なぜ曲を書かずにはいられないのでしょう。

 このところ、作曲家に憧れる若い人の相談を受けることが多くなったので思うのですが、作曲家になるための決まった道というものはないんですね。勉強はもちろんした方がいいのですが、勉強したからなれるというものでもありません。プロで活躍している人は、みんなそれぞれ違った道程で自分の活躍の場に辿り着いています。

 作曲家の知り合いや友人を見ていると、大きく2つのタイプに分かれます。締め切りがあれば書く(あるから書ける?)、頼まれたら書くというタイプ。もうひとつは、締め切りに関係なく書きたいものを書くタイプ、書かずにはいられないタイプ。
 私はどちらかと言えば後者で、ピアノランドの頃から、というより子どものころから、自分で書きたいものを書いてきました。ピアノランドの場合は、自分が教える立場としてこんなものが欲しい!という楽譜を形にして出版社に持ち込んだので、出版スケジュールに追われることはあっても、幸い、精神的に追いつめられるということはありませんでした。それは"The Four Seasons"(CDは樹原涼子STUDIO、楽譜はリットーミュージック刊)のときも同じです。友達の死をきっかけに、書かずには乗り越えられない思いからCDを作り、楽譜集の出版までできたことは本当にラッキーでした。
 
 作曲家はどんなタイプの人が向いているか一概には言えませんが(内緒ですが、変な人が多いです!)、例えば、何もないところに、ゼロから作品を生み出すということが楽しくて楽しくてたまらないとか、あるイメージを追い求めて書き続ける過程が好きとか、自分が面白いと思うものをイメージの中でとことん遊ばせて、完成度を高めていくのが好きな人、などでしょうか。専門に勉強したことは、曲の形を整えていくときにちょこっと役に立ちます。
 作る作業はいつも一人。集中力とあきらめないタフさが必要です。

 編曲は作曲と似ているようですが、はじめに"素材"があるので、それを生かす力があればいいのです。作、編曲のどちらかが向いている人と、どちらもできる人がいますが、私は人のものを編曲することよりも、自分で生み出す方が好きです。でも、頼まれて編曲することもあって、ゲーム音楽では「桃太郎伝説」「桃太郎電鉄」の第1作目、それからCMなど。
 この2つのゲームは、サザンのベーシスト関口さんが、こんな感じで、とつま弾いたり歌ったりしたフレーズを、その場で採譜して編曲していくという、ほぼ合宿状態の仕事だったので、聴音、和声、対位法などの経験がバリバリに役立ちました。同時3音か4音の発音数でのアレンジは、ほんとに"腕の見せ所"でおもしろかったのを覚えています。
 こういう仕事は試験ではありませんから、正解がないんですね。和声的に正しいラインも使うけれど、ある場所では禁則を破り、バランスも崩す。魅力的に仕上げることと、そのシーンにあっていること、ゲームデザイナーや作曲者のイメージを具体的な作品にしたもの、さらに私でなければならない+αも欲しい! と、とても勉強になったのでした。

 そんなわけで、私の経験からすれば、いわゆる"勉強"が役立つのはどちらかといえば編曲の方で、作曲には勉強よりも、生み出す力、創造力の有無が大きく影響するように思います。

 
 私のピアノ曲を弾いてくれる人が日本中に何十万人もいるなんて、ときどきふと信じられない気がします。ゲーム音楽『リンダキューブ』や『俺の屍を越えてゆけ』で、たくさんのゲームファンに私の曲を繰り返し聴いてもらえたこともとても幸せです。私の曲や歌を聴いたり演奏したりする人から「ありがとう」と言われるのは、本当に嬉しいことです。

 で、何を言いたいかと言えば。
 作曲家になりたいみなさんへ。
 迷っている暇があったら、前へ進むことです。どんどん書いて、形にしていってください。はじめはつたなくても、生み出し続けることで成長していきます。1曲書けたら、次の曲を書きましょう。
 何の保証もないけれど、音を紡いでいく仕事は素晴らしい仕事ですよ。一生仕事としてやり続けていくに値する、素晴らしい仕事です。『ピアノランド』や"The Four Seasons ベスト・セレクション"は、作編曲家を目指す人の手本になればとも考えて書いたので、参考にして頂けたら嬉しいです。
 夢で終わらせずに、あなたにしか描けない世界があるかもしれないことを信じて、チャレンジしてください。目の前に道はないけれど、歩いていれば後ろに、あなたの道ができるから。

 先生を探すときは、自分の勘を信じて。私にとっては、作曲家の先生ではなく、ジャズピアニストの八城一夫先生に6年間師事したことが大きかった。

 会ったことがない若い人からの相談に、無責任にこたえられないなぁと思います。なので、今回は、その人を含めて、音楽を志す人の役に立てれば...と、自分を振り返って思うことを書いてみました。

 
P.S.
 それから、お知らせがふたつ。

♪ピアノの先生を目指す若い人はもちろん、中堅、ベテランの先生方、ピアノファンのみなさん、10月26日のセミナーに、ぜひいらしてくださいね。目先のことではなく、生徒を本当に上手にしてあげたいと心から願っている方にお話できたら嬉しいです!チラシはこちら。(使用テキストは当日お求め頂けます)

♪ 武蔵野音楽大学の公報誌 MUSASHINO for TOMORROW vol.95 の卒業生インタビュー、今回は樹原涼子が登場しています。音大の近くの方はぜひゲットしてくださいね。こちらでも、ご覧になれます。

2010年10月06日 樹原涼子
ピアノランドフェスティバル ピアノランドメイト入会のご案内


〔CD〕樹原涼子ピアノ曲集「こころの小箱」(2枚組)
〔CD〕樹原涼子ピアノ曲集「こころの小箱」(2枚組)
ピアノ曲集「やさしいまなざし」
ピアノ曲集「やさしいまなざし」
〔CD〕風はどこから
〔CD〕風はどこから
ピアノ曲集「夢の中の夢」
ピアノ曲集「夢の中の夢」
ピアノ連弾のための「ラプソディ第1番」
ピアノ連弾のための「ラプソディ第1番」
ピアノ曲集 こころの小箱
ピアノ曲集 こころの小箱
樹原家の子育て ―ピアノランドと笑顔の毎日―
樹原家の子育て ―ピアノランドと笑顔の毎日―

過去の日記